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鵠王国の王家の紋章は白鳥。そのためこの学園の建物や什器、食器などのありとあらゆる装飾に白鳥が用いられている。だから当然、この鏡の上部に彫られた鳥も白鳥……下手くそな白鳥だろうと思っていたのだが、こいつはどうやらアヒルだったらしい。学園の七不思議は、魔法の鏡のパチもんであったようだ。
「笑い事じゃないわよっ。どうしてくれるの。これじゃあ、瑞樹様の心を射止めることもままならない。とんだ呪いの鏡じゃない」
絹のように美しい白銀の髪を掻きむしって、雪華が吠える。
「呪いじゃないさ。これが君の願いを叶えることになるんだよ。
“どうかあの貧乏娘にうつつを抜かしている婚約者を、私の方に振り向かせてください”だっけ?そもそもの問題だけど、控えめに言っても君のその我が儘かつ傍若無人な性格で、彼を落とせるとは思えない」
「何ですってぇ」
「お、落ち着いて、雪華……」
アヒルの首を絞めんばかりの雪華を、私はどうどう、となだめる。
ところで私達、人格は入れ替わるものの、それぞれが表に出ている時の記憶は共有している。だがお互いの意思疎通は、この鏡に姿を映すことでしかできない。今は日中の授業の合間なので、表に出ているのは雪華の方だ。私は今は鏡の中から、アヒルと悪役令嬢のやりとりを見ているわけである。そのせいか、なかなか口が挟めない。彼らの個性が強すぎるのが原因のような気もするが。
「だから「真夜」の人格を入れ込むことによって、彼にとって受け容れやすいようにしたんじゃないか」
なるほど、押しが強く攻撃性が高い彼女と、押しが弱く流されがちな私を合わせることによって、マイルドにしようとしたのか。いやいや、それはいくら何でもトンデモ理論ではないだろうか……?案の定、雪華も、
「そんな無茶苦茶なやり方があってたまるかってのよ。とにかく元に戻しなさい!今すぐに!」
と、アヒルに命令する。だが言われたアヒルもひょうひょうとしたもので、
「無茶言うなよ。君たち二人の願いを叶えるためにかけた魔法だ。君たち二人の願いが叶わないと、解けない」
と断ってくる。彼の言葉に私達は鏡越しに目を見合わせた。
「二人の……?」
雪華の願い事がこんな状況を引き起こしたのだと思っていた。だが彼の話だと、私の願いも原因であったらしい。
「真夜、あなたは何を願ったのよ?」
「いや。特に心当たりが無いんだけど」
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