悪役令嬢は二重人格

4/12
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 私としてはたまたま自分が本の中に引っ張り込まれた、単なる一般人という感覚だった。それが私の方にも何か望みがあるらしい。 「僕に言えるのはここまでだ。後は二人で頑張ってくれたまえ」  クエーッ、クエッ、クエッと高笑いを残して、魔法のアヒルは元の木彫りのアヒルに戻ってしまった。後には雪華と、鏡の中の私だけが残された。  * * *    仕方がない。  同じ体にいるもの同士、私達は協力することになった。  そうしなければ元には戻れない。私の方の望みはまだわからないが、雪華の方の望みはわかっている。  瑞樹様に雪華を好きになってもらうこと。  そのために瑞樹様からの好感度を上げ、強力なライバルである春花をなるべく彼から遠ざける。まずはそこから解決することに決めた。  決めた、は良いが、私は速攻でその決断を後悔することになる。  というのも「悪役令嬢」というキャラクター系統に身を置く雪華。やることなすことがいちいちあくどいし派手なのである。  あるときは授業に出られないよう、春花不在の部屋に入って学習鞄をナイフでズタボロに切り裂いた。(これは彼女が再びいない間を見計らって、私が予備の綺麗な鞄と取り替えた)  またあるときは教師が決めた校外へのスケッチ旅行の班を、瑞樹様と春花が一緒で自分だけが別だというのを妬んで、教師の準備室に忍び込んで書き換えた。(私がさらにその後で忍び込んで、その表を正しいものと入れ替えた)  またまたあるときは音楽の授業。これまで貧しく楽器の手ほどきを受けることができなかった春花が、瑞樹様も含む他の生徒達の前でピアノの演奏に失敗するのを、「あーら、春花さんは仮にも貴族の令嬢でしょうに、楽譜も満足に読めないなんて。恥ずかしいこと」と、他の令嬢を煽るようにして率先して笑った。(後で私がこっそり楽譜の読み方を教えてあげた。筋は悪くないので、そのうち他の令嬢顔負けの素晴らしい演奏をすることになるだろう)  他にも細かい例を挙げればキリがない。小心者の一般市民である私は早々についていけないものを感じ、そんな私に彼女はますます髪を逆立てた。 「何なのよ、貴方はっ。瑞樹様に愛してもらえないと、元に戻れないのよ?それを私がすることをことごとく潰して……」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!