悪役令嬢は二重人格

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 そうなれば、これまで貧乏貴族と嘲笑ってきた春花と立場が逆転するのだ。  その焦りが、怪しい鏡のおまじないなどという、軽率な行動に走らせたのだろう。  一方で、そんな彼女を少しだけ尊敬する部分もあるのだ。  雪華の立場の問題はさておき、彼女が瑞樹様を愛していることは確かだ。それは同じ体で同居している私が一番よくわかっている。  好きだから必死でライバルを蹴落とし、彼にアタックしている。プライドを捨てて小者じみた嫌がらせで春花を遠ざけ、瑞樹様に愛してほしいと訴えかけているのだ。……それは、私にはできなかったことだ。  同じサークルで一年生の時からずっと好きだった同学年の男の子。  たまに話しかけられたときは嬉しくて、でも自分から話しかけにいくことなんてできなかった。  他にも彼のことが好きな子が同じサークルにいて、積極的に彼に話しかけ、一緒にいようとしていた。彼女は普段から「彼のことが好きなんだ」と周囲に言っていて、皆が応援していた。そして私もそれに同調していた。  本当に何もできなかった。たまたま彼と彼女と私とが一緒に部室にいたとき、 「じゃあ、いっそのこと私達付き合わない?」 「うん……良いよ」 とふざけたようで真剣なやりとりが目の前で繰り広げられて、私はやっぱり黙っていることしかできなかった。  「おめでとう」と何とか絞り出したとき、私の笑顔は歪んではいなかっただろうか。  そして安い缶チューハイ一本買って、鞄に入りきらない本を図書館で借りてきて、家で一人飲んだくれることしかできなかったのだ。  恋のために動くことができるのは本当にすごいと思う。まあ、雪華の場合はやり過ぎではあるんだが。 「……とにかく!春花を瑞樹様から離れさせるにしても、彼女を傷つけたりひどい目に遭わせるのは駄目」  情けない私だから、彼女の恋の手助けにはなれないかもしれない。だけどせめて彼女が悪事で捕まらないようストッパーにはなろうと思う。  物語の中でも、雪華の悪事が露見したから、瑞樹様の婚約者としての地位を追われたのだ。そうでなければ彼女の立場はなんだかんだ安泰だったはずだ。結局のところ、あの展開は雪華の自業自得なのである。  そう考えて、びしっと言いつけた。言われた雪華は不満そうだったが、「……わかったわよ」と渋々頷いてくれた。
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