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「それは、どうして?」と、僕は訊いてしまう。
彩乃が迷うことなく、こう言った。「きっと、なくすものの方が、多いの」
彩乃が、僕の手をぎゅっと握ってくる。僕は、黙って続きを待った。
「わたしには、わたしなりの見え方があって。あまり、うまく言えませんけれど」と、彩乃が微笑む。
「伝え方も、人それぞれだと思うんです。榊さんも、絵本で色んなことを伝えたいでしょう? そうだ! いつか、わたしにも、読ませてくださいね」
「はい」と、僕は不思議と安心してしまう。
この世界には、こんな奇跡があった方が、ちょうど良いのかもしれない。
僕は、ひたむきに、そう願ってしまった。
掌に伝わる、彩乃の温度。
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