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【1杯目】俺の恋人
俺は1ヶ月前に恋人ができた。名前は、稲葉亮輔。
亮輔は高校2年からの付き合いで部活も同じ弓道部だった。だが大学は別々だ。
勉強が苦手な俺は、特に行きたい大学もなくただただ入れそうなところを選んで進学し、奴は県内の有名大学に合格した。小学生でもあるまいし毎日遊ぶわけではないが、お互いの実家が近いこともあって、大学へ進学した後も二週間に一度くらいはどこかへ出かけていた。
ところで、男は彼女がいる場合を除き、「彼女ほしいー」ということばをあいさつ代わりにしている。「おはよう」「久しぶり」の代わりに「彼女ほしいー」だ。
ヘタしたら呼吸するみたいに無意識で「彼女ほしいー」を連発しているかもしれない。
でも実際は、是が非でも彼女が欲しいわけでも何でもない。
よく分からないけど、男である限り、言わなければという使命感が宿る。
で、ある時、モスバーガーで期間限定の【傑作ベーコン スライスチーズ入り】を頬張っていたら、向かいに座る亮輔が真剣な面持ちで、
「まじで彼女ほしいの」と聞いてきた。
俺は右手にバーガー、左手にポテトを持っているという状態だった。
誰か良い子を紹介してくれるのかと思っていたら、
亮輔は持っていた【照り焼きバーガー】を静かにおいてじっと俺を見ていた。
しょうもないふざけた会話しかしてこなかった俺たちにとって、初めて味わう空気が流れる。亮輔が緊張しているのか、心なしか自分もヘンに身体がこわばってしまい、俺はポテトを置き炭酸を勢い良く吸い上げ、ズズズっとわざと音を立てて飲んだ。
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