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朝食をとり、剣を腰に差し、1階に降りる。
ヴィオレの姿はなかった。
宿を出ると、より一層大きな音楽が鳴り響き、善の国の国旗がそこらじゅうではためいていた。
しばらく歩き、会場を目指す。
広場では、ごつい男どもが自分の筋肉を競い合っていた。
いかにもむさ苦しい場所になっていた。
女性に囲まれている男らしい女性もいる。
女性の部に参加するのだろう。
フードを被り、周りを歩く。
まだ、参加者の募集が行われていた。
紙を持った少女が、ごつい男たちから名前を聞いているのが聞こえる。
少女に気を取られ、誰かにぶつかってしまった。
慌てて離れる。
「すっ、すみません。」
顔を上げると、いわゆる美青年という言葉が似合う男性が、 驚いたような表情をしていた。
沈黙が流れる。
「あっ…あの…」
「ああ、ごめん。僕も不注意だったよ。大丈夫?怪我はしてないかい?」
優しそうな笑顔でそう言う青年は、クルスの腰に着けていた黒い剣に気づく。
「その剣…君も騎士なのかい?」
咄嗟に剣に手を置く。
「えっと…まぁ、はい…」
青年が後ろにいたもう一人の男性に何か話している。
男性は青年を止めているようにも見えたが、青年はクルスに向き直ると、クルスの手を取る。
「良ければ、僕と一緒に祭りに参加してくれませんか?」
「はっ、はい!?」
青年がクルスを引っ張り、受付の少女の前に並ぶ長蛇の列の最後尾に並ぶ。
「あっあの…」
「前々からこの祭りには参加したかったんだよ。君みたいな強そうな人がいてくれてよかった。」
「あっあの…俺は。」
何か言おうと頭をフル回転させるが、青年は考える隙を与えない。
「あっ、それとも、元々参加する予定だったかい?」
「いっ、いえ、そういう訳では…」
「なら大丈夫だ!僕はこう見えても、喧嘩は強いんだぞ!」
一体青年はクルスからどう見えていると思っているのか。
爽やかな笑顔で笑う青年。
クルスは苦笑いをうかべる。
もう逃げられないと本能が示している。
やっとクルスと青年の受付の番になった。
少女が明るく問いかける。
「お名前をフルネームでお願いしまーす!」
クルスは戸惑う。
任務上、ディザイアの名前は名乗れない。
家系を表す名前は、悪の国の騎士だと感ずかれる可能性があるからだ。
「クルスです。あの…家名を言うのはちょっと…」
それを見た青年はにこやかに少女に言う。
「僕達は訳あって、家名を名乗ることが出来ないんだ。すまないね。」
青年が少女に名前を伝える。
クルスは疑問に思った。
なぜ善の国の国民が、家名を名乗らないのかを。
表情から気を使ってくれた訳でもなさそうだ。
「ほら行くよクルス!!僕たちの晴れ舞台だー!」
さっきまでぼーっとしていたが、いきなり肩を組まれ、驚くクルス。
家名を名乗らないことを疑問に思う中、青年は足を止めない。
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