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僕は全面をこんがりと焼いた鰹をまな板の上に乗せた。粗熱が取れるのを待つ間に食卓を整える。春キャベツの酢の物、ひじきの白和え、鷹の爪入りピリ辛きんぴらごぼう、のらぼう菜の味噌汁、春かぶの漬物、そして初鰹のたたき。
全体に白っぽくなった鰹の柵に包丁の刃を当てる。スッと軽く引くと、おいしそうな赤い断面が顔をのぞかせた。よし、きれいに表面だけが焼けている。
「うまそうだな~」
切った鰹を皿に並べ、その上に葱を散らす。僕は得意気に返した。
「おいしいに決まってるだろ」
「いやー、フライパンで焼いてるのを見た時はびっくりしたけど。さすが、メガネキャラは違うな」
メガネを掛けているから何なのだろう? 彼は陽気でいつも面白いことを言う。
「いただきまーす!」
元気よく手を合わせると、彼は嬉しそうに食べ始めた。なかなかの食べっぷりだが、彼は食事の行儀がとても良いのだ。箸の持ち方もきちんとしていて、テーブルに肘をつくような真似もしたことがない。良い家庭で育った証拠だ。時折ふと、自分のような人間が彼と一緒に居ても良いものかと考えてしまうことがある。
「おいしい! 最高、幸せだ! さすが中島、料理の天才、大好き!」
目の前には満面の笑みの彼。本当に幸せそうな顔だ。それがただ単純にご飯がおいしいから、という以上の理由があると思っても良いのだろうか?
「君は何を食べても同じことしか言わないじゃないか」
「そりゃ毎回同じことを思うからだよ。ご飯はおいしい、中島は大好き、俺は幸せ」
にこにこと嬉しそうに笑う。つられて思わず僕も微笑んでしまった。
ありがとう、僕も幸せで大好きだよ、磯野。
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