春の食卓、うららかな君

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「中島、大変だ!」  昼食の準備をしようと、冷蔵庫を開けた彼が叫んだ。 「どうしたの?」 「昨日買った初鰹、食べるの忘れてた!」 「ああ……」  そういえばそうだ。午前中にスーパーで生鰹の短冊を買っておいたのに、夜は外食してしまった。 「俺が急にラーメン食べたいなんて言ったから……」 「落ちこんでないで、鰹出して。たたきにするから」 「えっ、炙るの? 金串も網もないだろ?」 「大丈夫。ほら、その間に庭から大葉摘んできてよ」  僕はフライパンを火に掛け油を引いた。よく熱した所に生鰹を乗せるとジュッと小気味良い音が立つ。 「フライパンんん!?」  大葉を手に戻ってきた彼が大声を上げた。 「そんな驚かなくても、こないだはローストビーフをフライパンで作っただろ。たたきだってできるよ」 「えー、ホントに?」  疑いの目でのぞき込む彼を追い払い、大葉と葱を刻むよう指示を出す。 「それが終わったら生姜とニンニクもすり下ろして。ぼんやりしてるヒマはないよ」  以前は包丁を持つと指を切って大騒ぎしていた彼も、最近は随分と上達した。ふたり暮らしももう半年近い。今日はおそらく葱の輪が全部繋がっているということもないだろう。
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