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end
周りの人は泣いているのに、なんで俺は他の人に比べ、こんなにも平然としているのだろう。
1番の親友だったのに。
─────────
初めて着る、真っ黒な喪服。
実感がなくて悲しくなれない今。
俺の目の前には血の気のない親友が静かに眠っていた。
彼は昨日俺と電話した直後、車に轢かれ亡くなった。
久しぶりの電話。元からあまり電話しない俺達には珍しい事だった。
また会いたいな、なんて言って。彼女は出来たかとか、やっぱ高校は一緒が良かったなとか、部活一緒なんだからまた大会で会おうぜとか。
そいつと俺が初めて出会ったのは、中学一年生の時だった。
同じクラスで最初は全く気にしていなかったけれどたまたま名簿順が前後で、俺が何となく話しかけまくったのが最初。
最初は鬱陶しそうにしていたけれど、俺が人間関係で上手くいかず、転部した先にそいつがいたから話しかけると意外と意気投合して、今じゃ1番の親友になっていた。
でも、もうあいつはこの世に居ない。
あのはにかんだ笑顔も見ることが出来ない。
あの聞き慣れた声も聞くことが出来ない。
一緒に大会で出会うことだって出来ない。
スマホの画面にはあいつからの「また会おうな」で終わっているメッセージ。
こんな形で会うとは思わなかったよ、とポツリと呟いた。
突然、受付のところから叫ぶような声が聞こえ、ふと見るとあいつの母親と、あいつを轢いた車の運転手がいた。
あいつの母親はその運転手に泣き叫びながら怒鳴っていた。運転手の男も泣きながら謝っていた。
普段は穏やかなあいつの母親が怒鳴っているのは遠くから見ている俺も若干怖かった。運転手を恨んでいないと言ったら嘘になるが、轢いたのはわざとじゃ無いだろうに、と少し気の毒になった。あいつはいつも母親は怒らすと怖いと言っていたが、普段の姿からは想像もつかなかった。確かにこれなら怖いかもしれない。
「あの、兄の机からこれが…」
俺に話しかけてきたのはあいつの妹だった。見たことはあるけれど、話したのはこれが初めて。あいつとは似ても似つかない可愛らしい中学一年生くらいの女の子だった。
彼女から渡されたのは、小さな茶色の封筒だった。俺の名前が端にあいつの字で小さく書いてある。郵便番号のところにはなぜか俺の家の郵便番号が書いてあった。
何故かいつも俺にはどんな時でも茶封筒で手紙を渡してくる。昔から。俺だけに。
俺の誕生日に渡し忘れた手紙かもしれないと思いながら開けるとそれは予想外のものだった。
『親友だと思われるお前へ。
これを見ている時、俺は死んでるのかもしれない。これは俺が死んだ時、お前に伝えたいことを書いているからさ。もしまだ死んでないのに読んでるんだったら恥ずかしいからもう見なかったことにしてそっと戻しておいてくれ。
まだ見てるか?じゃあ俺は死んでるんだな?
本題に入るけど、お前さ、いつも俺に彼女できたか?ってばっか聞いてきたじゃん。俺、実は好きなやつずっと居てさ。俺、お前が好きなんだよ。最初からじゃない。部活一緒になってからだ。これだけは絶対に伝えたかった。お前がこれを知ってどう思うかは分からないけれど、これさえ知っといてくれれば俺的にもう思い残すことないと思うから。幽霊になってお前に会いに行こうとかしないからそれは安心してくれ。じゃあな。お前は幸せになって長生きしろよ。
20××年 お前のことが好きな俺より』
「は…?」
どういうことかよく分からなかった。
書いた年は今年。つい最近書いたらしい。
まるで死ぬということがわかっていたようだ。
俺はその手紙を握りしめながら、再びあいつの顔を見た。
あぁ、何か足りないと思ったらそういうことか。俺はお前が好きだったのか。
しかしもうこの気持ちを伝えることは出来ない。俺だって気づいていなかっただけで昔から好きだったんだと、伝えることの出来ないまま、こいつは逝ってしまった。なくなってから大切なものに気付くというのは本当だったのか。
「俺も…俺も好きだった…っ」
そこで初めて涙が出た。
1度泣くと涙腺は緩むもので涙は止まらない。
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周りの人も泣いているけど、なんで俺は他の人に比べこんなにも号泣しているのだろう。
1番の好きな人だったからか。
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