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三十七話 〜生きる場所を求めて
まぶたの向こうが明るい───
ゆっくりと目を開くと、僕は水の中にいるようだ。
ふわふわと浮いている感覚がする。
ただ水は白く濁っていて、なにも見えない。
……天国に着くと、海から始まるんだろうか?
母なる海、なんていうし、そうなのかもしれない。
もう一度眠ろうかと目を閉じかけたとき、耳元で怒鳴られた。
『隼が起きた!!!!!』
その声に、僕は覚醒する。
朱だ。
聞き間違えるわけがない。
こんな、クソでか声!
でも、なんで朱の声が……?
なんで?
ここ、天国じゃないの?
いや、地獄?
お墓の前で叫んでるには、おかしいよな……
つい、腕を持ち上げ、顔に触れようとしたとき、手が顔に届かない。
……なにこれ、僕、ヘルメット?
かぶってる……?
ちょっと待って、わかんない。何これ!?
え? 何、どうなってんのっ?
ヤバいの!? え??
『隼の血圧上がってる! 鎮静剤!!』
右腕に熱が走る。
何かを入れられたようだ。
入れられた……?
体に視線をずらすと、全身白いスーツに身を包んだ自分がいる。
その姿で白く濁る水に浮いている──
「……な、なんだこれ……」
『落ち着いたな。喋れるようだな、隼!』
「……ちょ……うるさいよ、朱」
『もう五日も寝てたんだぞっ! ボクの声も大きくなる!』
「だから、うるさ……五日? いつかも!?」
体が、背中が沈んでいく。
水が抜かれているんだ。
すとんと背中が硬いものに当たった。
朱が寝ていた、あのケースのような場所だろうか。
完全に水が抜け、霞んだ目に手が見える。
見慣れた懐かしい小さな手は、少し乱暴に僕のフルフェイスのヘルメットを剥ぎ取っていく。
「……僕、生き……」
一人で、今の瞬間を堪能することもできないらしい。
「──隼、おかえりっ!」
抱きついた朱を抱えながら、「ただいま」と僕は返した。
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