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三十八話 〜生きていく場所を求めて
僕の体は、隅から隅まで修復済み。
飽くまで、朱の話では。
体感的には、目も前みたいに見えてるし、義手の具合も問題ない。
もちろん、切り傷なんかも全て塞がってる。
白い傷痕は、たくさん、たくさん残ってるけど。
「今回の治療は、本当に大変だったんだ!」
相変わらずデカい胸を腕に乗せながら腕を組んで、朱が話してくれた。
もうナノマシーンは使えないということで、僕自身を培養液につけて、修復促進をはかったそうだ。
そのせいで時間がかなりかかった、と朱は言っていたけど、それでも五日で済んだのはすごい。
迷路街なら、間違いなくのたれ死んでるし、仮にお金をかけても、1ヶ月以上はかかると思う。
ただ、五日も世界が過ぎていると、ちょっとした浦島太郎の気分だ。
日付が五月の半ばといえる、十六日になっているだけでも、印象が全然違う。
「よし、隼、個室に移動するぞ! ここの部屋は蒸気の音でうるさいからな!」
確かに部屋を見ると、沢山の蒸気管から、歯車たちがシャカシャカと忙しなく動いている。
全て僕の身体を治すためだけに動いていたのだと思うと、小市民の僕にとっては、治療費も気になってくる。
「ほら、隼、これに着替えろ」
渡されたのは、真っ白な病衣だ。
白いぴったりスーツは、体を修復するためのものだったらしい。
僕はワンピースみたいな病衣に着替えていくけど、五日も寝ていたせいか、膝がうまく動かない。足がフワフワする。
「気を付けろ。筋肉が落ちてるからな!」
「そっか。また筋トレし直しか……」
「心配無用だ! 筋肉増強補助の鎧を造るから、大丈夫だ!」
「それ、本当に大丈夫?」
なんとか着替え、朱に手を引いてもらって移動した先は、個室の病室だった。
白い長い廊下を渡り、白い壁を伝って入った病室は、清潔な香りで充満してる。
どれもこれも、慣れないものばかり……。
僕はなんだか居心地が悪くて、そそくさとベッドに潜っていくけど、朱は慣れたもので、座り心地の良さそうな椅子を引っ張り出して、僕の横に腰をかけた。
「なかなか寝心地のいいベッドだろ?」
「そうだけど。……ねぇ、朱、ここって病院だよね?」
「当たり前だろ」
「ここって個室だよね?」
「このボクがいるのに、相部屋など無理だ! だいたい香煙の者が使う専用の病室だ! 他の個室と比べないで欲しい!」
「……あ、あのさ、お金」
と、話しかけたとき、閉めたばかりの部屋の扉が、唐突に開かれた。
「隼ちゃん、よかったぁー! 退院したら、焼肉いこーねー」
「うるさいよ、ベニコウロ。ごめんね、本当に最後まで戦わせてしまって」
ペラペラと喋り出した二人だけど、もしかして、
「は、花火師のお二人ですか!?」
慌てる僕に、二人はなんで驚くの? という顔だ。
だいたい、お面がない。さらに、私服だよ、私服!
二人ともめっちゃおしゃれだし、イメージより優男……というか、イケメン。爽やかイケメン。
緑がかった茶色の髪をサッとかきあげる仕草なんて、もう、清涼飲料水のCMなんじゃないかってぐらい。
……これ、もう、アイドル! ちょーアイドル!!
だから、顔出ししないの!?
顔出したら、もっとファンがつくの間違いなしだし!!!
「なに、まじまじ見て。どーしたの、隼ちゃん?」
「目が覚めたばかりだし、まだ体も本調子じゃないよね」
話しかけてくれるけれど、見た目が凄すぎて、全然頭に入ってこない。
ふと、頬の横と首筋が見えた。
……二人はやっぱり御煙だ。
切り傷はもちろん、火傷の痕がある……。
……というか、見分けがつかない!!
「え、あの、え、お面、とかは……」
「そんなの、もうすぐ兄弟になるし、顔隠さなくても問題ないじゃーん」
「あ、見分けがつかないのかな? 右目の下に黒子があるのが、ぼく、ベニギンラン」
「で、左目の下に黒子が、オレ、ベニコウロ!」
「……はぁ」
まさか御煙番の顔を見る日がくるとは思っておらず、どう感動していいやら……。
でも兄弟ってなんだ……?
その前に、玉藻前のこと!
「あ、その、ベニギンラン、玉藻前はどうなりましたか……?」
「どうにか、ね。ぼくも結構ギリギリだったよ」
確かに腕など包帯が巻かれている。
だが、それほど大きな怪我はなかった、のだろうか?
詳しく聞いていいところなのかな……。
口を開きかけたとき、ベニギンランの方が早かった。
「ね、木場くん」
「は、はい」
「なんで、シラカバの爆弾を咲かせることができたか、教えてくれる? 君、学校行くからさ、ぼくら、いろいろ報告しなくちゃいけなくって。クラス分けとかあるし」
「ん? あ、……えっと、なんていうのかな、イメージみたいな感じなんですけど、蒸気の粒が視えて、それに爆弾がくっついているのがわかったんですよ。で、それだけを抽出して、咲かせた感じです」
「それは、木場くんのアビリティ……? 昏睡だったよね?」
「その……あの、母が昔、『母さんは、蒸気の小さな小さな粒まで見える』って言ってたんです。多分、これのことかなって……」
「じゃ、隼ちゃん、マルチアビリティってやつだ!」
「なんですか、それ」
「たまにいんだよ、複数持ちのヤツ」
「でも、今はなにも……」
「じゃあ、鍛えればマルチになるだろうから、頑張っていこうね。あと」
「早まるな、双子よ!」
そう仕切りだしたのは、朱だ。
何事かと見つめると、
「隼、よく聞け!」
「聞いてるし、うるさいし」
「隼の今回の医療費は二千万はくだらない!」
「……いきなり、何を言い出すのかな」
「そこで、だ。ボクはとても優しい。分割払いにしてやる」
「なにそれ、三十五年ローンとか十代で組みたくないんですけど」
「さらにさらにボクは優しいからな! ボクの側近になれば、ローンはチャラになる。……どうする?」
「即金? 無理だよ。お金ないから、ローンなんじゃん!」
「ちがぁーう!!! そばに近いと書いて、『側近』だ!!!!」
───即金、じゃなく、そばに近い……側に近い……側近…………?
「は? 側近ってどういうこと!?」
「もちろん、幌士吏高校にも通えるぞー? 隠密の訓練を受けれるぞー? どうする? どうするぅー?」
いきなりの展開に、僕の心がついていかない。
だけど、興奮しているのがわかる。
僕は、そう、僕は───
「……隠密に、御煙番に、なり、た……」
胸が苦しくなる。
ようやく見えた目が、熱い。
……もう、止められない、涙が止まらない!
ずっと、ずっと、ずっと、思い焦がれてた夢が、今、僕の目の前に、あるんだ……!!!
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