人形師

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人形師

――はいはい、何でございましょう。何とこの近くで人死にですか。殺しかもしれないって? そりゃまた物騒な。え、しかも被害者はこの国の英雄さんですと? 何とまあ剣呑な話でございますねぇ。あっしですか? あっしは近くの村から出稼ぎに来ておりましてね。露店で酒やなんかを売っておりますので。いやいやとんでもない。密造酒など扱ったことございませんよ。ははは。 ――目撃、ですか。おお、この写真の御仁が英雄様で。どれどれ。ああ! 見ました、見ましたとも。うちの酒を買っていかれましたよ。いや、もちろん代金などいただいてはおりませんがね。お国のために働く軍人様ですから。しかし英雄様とは知らなかった。 ――連れ、ですか? いやぁ、おひとりでございましたねぇ。しかし国の英雄が亡くなるなんて大変ですねぇ。え? そうでもない? なるほど、これからは争いのない時代を目指す、ですか。そりゃようございます。争いは何も生みませんからなぁ。英雄は死してまた英雄となるってわけですな。 ――いえいえ、あっしはもう次の街に行くとこですよ。ここでの仕事はもう終わりでございます。露天商の他にも仕事がございましてね。私、人形師なんでございますよ。ご注文いただけましたらどんな人形でもお作りいたします。おひとついかがですか? これでもなかなか評判がいいのでございますよ。あっしの作った人形には魂が宿るとまで言われておりまして……何と、興味ない。そりゃ残念。じゃあそろそろ失礼させてもらいますよ。 ――え? あっしの名前ですかい。あっしの名前は人形師のイザムリ。故郷は……もうございません。では失礼いたします。ご機嫌よう。 了
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