仮面の下のモリー

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「……あのさ」  私の声は、震えていた。落ち着こうと思って握った、麦茶のコップがカタカタと音を立てる。 「よくよく、考えてみればさ?……殺すなら、真っ暗闇になった時……自分の席に近い方が、殺しやすいよね?進級直後の席の席順変更ができるの、睦月先生だけだし。……羽丘さんの席、睦月先生の事務机の前、じゃん?」  もっと言えば。プロジェクターを先に消してしまったのが、偶然ではなく意図的であったというのならどうだろう。  さらに。あの日の授業内容に、いじめ防止のドラマを流したのも、全部意味があったとしたら。 ――犯人は、包丁を予め家庭科室から盗んでた。突発的犯行じゃない。……新しいクラスの編成も。あの日、あの場所に羽丘さんが座るのも、全部わかってたのって……よくよく考えれば、先生しかいない。  いじめの主犯だった、少女。  いじめられた少女は不登校になったが、それだけではないという話もちらりと聞いている。自殺を図ろうとして飛び降りて足を酷く折って、今でも歩くのに不自由しているとも。  睦月先生の、前の担任だったクラスは――どこだっただろうか。  もし彼女が強い恨みと信念を持ってして、何度も何度もあの教室で、暗闇の中正確に一人の少女を刺し殺す練習をしていたならば? 「……そんなはずないよ、あのおっちょこちょいで優しそうな睦月先生だよ?そんなはずないって」  スミレちゃんの顔は、引きつっていた。笑おうとして失敗している顔だ。きっと今、私も同じ顔をしていることだろう。  学級閉鎖になって、もう一週間。  何故まだ犯人が捕まらないのか――否、犯人の目星がついていたところで、すぐにクラスを再開できないのは何故なのか。その犯人を、クラスから追い出せば即解決――そんな甘い話ではなかったのだと私達は思い知らされる。  あの笑顔の仮面の下。あの人は、どれほど煮えたぎる憎悪を隠してそこに立っていたのだろう。  気づかなければ良かった。余計な好奇心を後悔したところで、全ては完全に後の祭りであったのである。
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