仮面の下のモリー

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 ***  その事件は、六年二組が始まった“二日目”の道徳の授業で起きた。  窓(廊下側も含む)全てに暗幕をおろし、真っ暗にした部屋の中――プロジェクターで道徳教育の映像を見た後に発生したのである。ちなみに、映像の内容はごくありきたりの“いじめ防止用の再現ドラマ”であったと言っておく。少し前にNAKで放送されていたいじめに関する問題提起のドラマを編集し、先生が流したのだ。何でも、去年別のクラスでは酷い苛めがあって、不登校になてしまった生徒がいたという話を聴いている。先生としても、新しいクラスで同じ轍は踏みたくなかったのだろう。  ドラマが終わって、先生がプロジェクターを消した途端、当然暗幕で閉ざされた部屋は真っ暗になる。先に電気つけてくれればいいのに、とあまりおばけ屋敷が得意ではない私は思ったものだ。担任の睦月(むつき)先生は若い女性で、結構おっちょこちょいな先生だった。ごめんちょっと待っててねー!と言いながら電気をごそごそやっていたのを覚えている。多分、間違えて先にプロジェクターを消してしまったというオチだろう。  真っ暗闇の中にいた時間は、そう長いものではなかったはずである。  ざわついた教室に、悲鳴が響き渡った。  先生が電気をつけた瞬間、私達が見たもの。それは、血まみれになって机に突っ伏して倒れている、一人の女の子の姿だったのである。  羽丘麻友(はねおかまゆ)。丁度、一番窓側の列、その一番前の席に座っていた女の子だった。二つに結んだ髪が、ぶるぶると痙攣で震えていたのをよく覚えている。首の後ろに、包丁が深々と突き刺さっていてとても痛そうだった。頸椎が人体の急所であるということくらい、小学生の私でも知っていることである。あそこを怪我すると、例え命が助かっても重い後遺症が残ることもあるということを。  麻友は病院に運び込まれたが、そのまま命を落としてしまったという。当然、そんなことが起きたクラスでそのまま授業など続けられるはずもない。すぐに警察が来て、学級閉鎖が決まってしまった。私達はたくさん宿題を出されて、家で勉強してろと言われて今に至るというわけである。  まあ、そんなこと言われて素直に勉強だけしてる生徒などそうそういないものだろうが。実際私も家にスミレちゃんを招いて、教科書も出さず部屋でお喋りしている状況である。 「包丁は、家庭科室から盗まれたものだったんだって。だから、誰が犯人なのか、そこから特定することは難しいんじゃないかって聞いたよ」
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