仮面の下のモリー

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 スミレちゃんが、私が冷蔵庫から出してきた麦茶を飲みつつ難しい顔で言う。私の部屋は、一戸建ての家の二階にあるし、お母さんは昼間はパートでいない。多少大きな声で変な話をしていても、今咎めてくる人間は誰もいないのである。 「問題は、あの真っ暗闇の中でどうやって人を殺したのかってことだよね。だって、ほんとなんも見えなかったよ。プロジェクター大きくて、すごく眩しかったし。犯人だって、あの真っ暗闇で包丁取りだして人を刺すとかなかなか無理ゲーじゃない?」 「だよね。あと、何で羽丘さんが殺されたのかだよ。羽丘さんが最初から狙われてたのか、それともたまたまだったのか」 「たまたまだったら怖いよね。あたし達も殺されたかもしれないってことじゃん」 「ほんとそれ」  まるで他人事のようだと叱られそうだが、実際申し訳ないながら他人事なのはどうしようもないのである。というのも、私もスミレちゃんも、彼女の席から遠く離れたところに座っていた。首に包丁が刺さっているのは見えたが、血も少ししか確認できなかったし、ましてや死んでいる彼女の顔なんか見えたはずもない。ようするに、未だに現実味がゼロなのである。  もっと言うと、死んだ羽丘麻友という少女に関してあまりに知らないことが多すぎた。正直、ほぼほぼ話したこともない相手だったから、に他ならない。なんせ新しいクラスになったばかり。自己紹介さえろくにしていない段階だったのである(実は、道徳の授業の最後に全員の自己紹介が行われる予定だったのだ)。  ただ。 「……まあ。私は、羽丘さんが狙われた可能性は高いと踏んでるけど」  話したこともない相手だったが。名前を一度も聴いたことのない相手だったかというと、そんなことはないのである。 「なんとなーく悪い噂を聞いたことはあったからさ。あの日、それとなくこそこそ喋ってた、元羽丘さんと同じ五年一組だった子に訊いたんだよね。羽丘さんってどんな子だったのーって」 「さすが梨緒(りお)ちゃん行動が早い!それで?」 「私は知らなかったけど、五年一組って結構酷かったみたいよ。いじめっぽいのあったんだって。羽丘さんが女王様みたいに、みんなを支配してたらしいよ。今年も同じクラスになったって知って正直絶望してた、ってその子は言ってた。こんなこと言っちゃなんだけど、いなくなってくれてほっとしてるとも」
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