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お約束として、進級直後のクラスの座席は例のごとく男女混合の名前の順となっている。苗字が“は”で始る麻友と、“あ”行の二人の席が遠いのは必然と言えば必然だった。
もっと言うと、今はコロナの影響もあって、一人一人の座席が若干離されている。普段よりさらに、席から席への距離は遠かったはずなのだ。
「家庭科室で包丁を盗んでおいたわけだし、明らかに計画的犯行でしょ。突発的にぶっ殺したわけじゃない」
「うん」
「てことは、真っ暗闇の中羽丘さんの席を覚えてて。そこに向かって包丁持って突き進まないといけないじゃん?それ結構難しい気がしない?」
「うーん……」
大体、先生がプロジェクターを先に消してしまったのがまず偶発的な事故である。そのわずかな時間に、どうやって真っ暗闇の中狙った少女を殺すというのか。
――……え?
そこまで考えて、私はふと違和感に気が付いた。もう一度、座席表をまじまじと見る。
今このクラスは三十二人の編成だ。羽丘麻友は、その窓際の一番奥の最前列に座っていた。その前には先生の事務机があり、右隣と後ろには別の生徒が座っているが、どこからも座ったまま彼女の首に手が届くような位置にはない。犯人が立ち上がって彼女の元へ行く必要があるのは確かだろうが――。
問題はそこではなく。
「変だ」
何故、気づかなかったのだろう。私は座席順を見て気づいた。
「羽丘さん、普通に名前の順の通りに座ってたら……一番後ろの席になったはず、じゃない?」
「え」
「だって。隣の列の一番後ろ……前田さんだよ?前田さんの方が名前の順では“ま”なんだから、羽丘さんより後に来るはずじゃん」
「あ」
そうなのだ。この座席順、最初の指定が間違っている。羽丘麻友と、前田五月の二人の場所が何故か入れ替わっているのだ。羽丘麻友が目が悪いから、先生に予め頼んで前の席にして貰ったなんてこともないだろう。単純明快、羽丘麻友は眼鏡をかけていないし、逆に前田五月は眼鏡をかけているからだ。どうあっても、元の席順の方が都合がいいに決まっているのである。
ということはつまり。この席順は、なんらかの事情で意図的に変更された可能性があるということ。
もしそうならば、やったのはこの席順を決めた担任の睦月先生でしかありえない。
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