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シティホテル
あまり眠れなかった夜が明けて、時計を見たら6時だった。起き上がろうと身体を動かすと、腕が伸びてきてつかまえられる。
「もう一回、しよう」
「え、でももう、朝よ。仕事は?」
「今日は休みだよ」
一瞬で組み伏せられ、キスをされる。何度もして慣れた感触に、いつの間にか快さを覚えていた。二時間の休憩で終わる逢瀬のはずが、何時間も一緒にいて、情が湧いてきて困ってしまった。だけど。
「ねえ、もう帰りたいわ」
「なんで。まだチェックアウトまで時間あるよ」
もう、朝なのだ。翌日なのだ。私の計画では、昨日で私の性をシャットアウトさせる予定だった。それなのに、私はまだ裸で男とベッドにいる。
「昨日で卒業したのよ、私」
「女を?」
頷くと、彼はまだ私にキスをしてくる。そのキスには、抗えないような甘さがあった。
「やめなよ、卒業するの」
胸に手が触れる。するりと腰を撫で上げられて、私の身体は震えた。
「玲子さんはまだ卒業できないよ。だって、濡れてる」
目を見開いた。そんなばかな。思わず自分の手を伸ばして、触って確認してしまう。
「僕と出会ったのも、なにかの運かもしれないよ」
「でも」
「だめだ。卒業はさせない。僕が」
彼の唇の、舌の、指の感触が、私を波のように襲う。もう、昨日は終わってしまった。カーテンの隙間から、明るい日差しが感じられる。
「あなたのことなんか、なにも知らないのに」
息が荒くなる。胸の動機が速くなってくる。
「ゆっくり知ればいい」
「あなただって私のこと」
「こういうことから始まる関係もあるって、僕は信じてるから」
世界一くだらない出会い系サイトを使ったはずなのに。もしかして、私は。
得がたい何かを、拾ったのかもしれない。
気がつかないうちに私は、彼を心の中に飼うことになった。
卒業、できなかった。終わらせることは、できなかった。
なのに私は、少し、幸せだった。
<完>
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