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「チエさんですか」
振り向くと、チャコールグレーのスーツを着たサラリーマンが、にっこりと笑って会釈してくる。年はいくつくらいだろうか。30そこそこか、それとも40近くか。どちらともいえない不思議な風貌だった。
「はい、チエです。タダシさんですか」
「はい、タダシです」
「本当のお名前は」
「忠です」
「同じなんだ」
「チエさんは、本名違うんですか」
「違います」
スマホの時計をちらりと見ると、ちょうど18時半だった。約束どおりの時刻だ。
「お茶でもいかがですか」
「いいえ、特に。ホテル、行きましょ」
きょとんとした目をされたが、すぐににこりと笑う。愛嬌のある表情だ。
「わかりました。じゃあ、行きましょうか」
私はこれからこの男に抱かれる。そして今後は誰にも抱かれない。今日が私の性の最終日なのだ。
女として、最後の夜。私が勝手に決めた。
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