ラブホテル

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ラブホテル

「シャワー、先に浴びてください」  私はベッドの端に座って、彼に勧めた。彼は上着を脱いでソファの上に置き、私の隣に腰かける。 「ちょっと話しましょう」 「話すって、何を」 「なんで出会い系なんか使ったんですか」  この忠とやらは、余計な詮索をするつもりだろうか。私は眉をひそめた。 「ああ、そんな顔しないで。僕も少しは愛着のある人としたいからってだけですから」  にこりと笑う。優しそうな顔。 「情が移りますよ」 「僕はわりとあっさりしてるので大丈夫」  指が伸びてくる。ぴくりと震えたら、髪の先をつままれた。 「きれいな髪。おばさんだなんて言ってたけど、まだお若いですね」 「そんなことない、おばさんです」 「いくつですか」  言う必要があるのかどうか、わからなかった。 「あなたはいくつなの」 「僕は43」 「なんだ、同じだわ」 「おばさんと呼ぶには半端ですね。ちょうどいい年齢じゃないですか」 「何にちょうどいいのよ」 「僕とセックスするのに、ちょうどいい」  髪を触っている手が動いて、耳たぶに触れられる。 「ピアス、つけてないんだ。穴あるのに」 「もう飽きたから。このまま塞いじゃおうと思って」 「それもいいですね」  唇が、近づいてくる。耳に触る。 「そんなに震えなくても」  震えているつもりはないけれど、いつの間にか震えていた。 「ごめんなさい、久しぶりだから」 「久しぶりってなにが」 「その、男の人と二人きりになるのが」 「そうなのか」  両手でぎゅっと抱きしめられた。まるで恋人のように。あたたかくて、でも、落ち着かない。そんな間柄ではないから。そんなことを求めているのではないから。私は。
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