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「チエさん、ご結婚は」
「してました」
「離婚したんですか」
「ええ、今日」
「えっ、今日?」
身体が離れて、じっと顔を覗き込まれる。そんなに見ても楽しい顔ではないと思う。
「今日、離婚届、出してきたところで」
「いいのかな、僕とこんなところにいて」
「いいと思います、婚姻届を出したばかりってわけじゃないから」
「あ、そうか」
そう、つい先ほど、16時前に、私は離婚届を提出してきた。受理されるまでは、結婚していた。さらに言うならば、今朝、夫と最後のセックスをしたばかりだった。だからといって、夫はもう、私にとって男ではなかった。ただの大きな赤ん坊だった。セックスをしたからといって、何も楽しくはなかったし、なぜしたのかすらわからない。多分、夫もわからなかっただろう。
「自由になったから、出会い系ですか」
「そういうわけじゃないけど」
「僕でいいのかな」
どうだろうか。少しずつ話している間に、情が湧いてきて困りそうだ。
「私はいいですけど、忠さんが嫌なら出ましょうか」
「嫌じゃないですよ、僕は」
再び強く抱きしめられた。人なつこい男なのだろうか。他人の領域にするりと入るのが、得意なのだろうか。
「チエさんがしたいなら、しましょう」
「ええ、そうね」
「その前に、本当のお名前を」
「どうして」
「チエさんはちょっとな。『じゃりン子チエ』みたいで」
「古いわね」
「古いと知ってるあなたも古いよ」
にこにこと笑われると、こちらもおかしくなり吹き出した。
「玲子です」
「玲子さんか、そのほうがずっと似合う」
気が緩んだ隙に、ぐっと抱き寄せられ、深くキスをされた。
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