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イタリアンレストラン
彼のキスは、とても上手かった。上手いか下手かをそんなに見分けることができるわけではないけれど、上手いのではないかと思った。きっと、かなり遊んでいる。女の扱いにも、慣れている。だからゆとりがあるに違いない。にこにこと笑えるのも、愛嬌のある顔も、みんなそのゆとりから来ているのだろう。
「玲子さん、ホントにセックスしたいんですか?」
唇を離して、彼は妙なことを言った。
「そのつもりだから、わざわざ出会い系使ったんだけど」
「あまり、したそうには見えないなあ」
確かに私はセックスはそれほど好きではない。ただ今夜で女を終了したいので、最後の記念というか、けじめとして、誰でもいい誰かに抱かれて終わろうと思った。最後が夫では、嫌だったのだ。
「今日はセックスするのやめといて、飯でも食いに行きません?」
「ええっ、あと腐れなしの出会い系で、そんなこと言っていいの?」
「いいの。僕なんだか、あなたに興味がある」
さあ立ってと促されて、私は思わず立ち上がった。服の乱れもほとんどなく、いつでも出られる状態だった。
雑然とした裏通りを抜けて繁華街を歩く。どんな店に行きたいか聞かれたが、何も考えていなかったので、答えられなかった。彼は「じゃあ無難にイタリアンにしようか」と言って、私を案内してくれた。
「ここ。入ったことありますか」
「あります。別れた夫と」
「嫌な思い出?」
「別に、それほどでも」
「じゃあここにしちゃおうか」
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