第26章 雨の音

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第26章 雨の音

退院の日。 今日は生憎の雨だ。 荷物を纏めて病院を出る準備をする。 コン、ッン。 誰かが病室をノックする音が聞こえる。 先生だ。 「今日で一応退院ですが、季節の変わり目なので体調には気をつけてください。絶対に無理をしないこと」 「はい ありがとうございます。」 私は、頭を下げた。 「家まで送りましょうか?」 先生がそう呟いた。 「えっ」 「迎えに来られる方がいらっしゃらないので」 そうだ。 健くんが迎えに来るっていう話だった。 そんな話をメールでやり取りしていた。 でも、最近になってメールが来なくなった。 健くんのおばあちゃんには頼めない。 もう年齢が年齢だし、危ない。 私は、少しイライラしながら髪をかいた。 「ちょっと電話してみます」 私はそう先生に言った。 病院の携帯電話が使えるスペースまで行って、電話をかける。 3回かけてやっと出たと思ったら、 「電波が届かないところにいるか、電源が入ってません」 のアナウンスが私の頭に響いていた。 心配になった。 事故にあったのかなと思った。 とても心配だった。 とりあえず病院を出てから動こうと思った。 「繋がりましたか?」 先生が私に声をかける。 「いいえ 繋がらない 」 「この雨で、1人で帰るのは無理です 送りますよ 私も昼から休みなんでね」 「じゃ、お願いします」 先生の車はいかにもお金を持ってる人が乗りそうな感じの車で、昔の車らしい。 私は健くんの事が心配で先生の話をうわの空で聞いていた。 渋滞にハマった。 しばらく車が動かなかった。 窓越しに外を見ていると色んな人が傘を持って出かけてた。 雨の日にデートなんてのも良いなと思ってた。 もう一度外を見た。 後で思った。 この時外なんか見なければ良かった。 外を見ると健くんらしき人が居た。 いつも私に見せる笑顔をしている。 窓を開けて話したくなって窓を開けようした。 だけど、開けれなかった。 健くんは他の女の子と仲良く手を繋いで歩いていた。 私は一瞬何が起きているのか分からなかった。 従姉妹とか、兄妹と思いったかった。 何かの間違いでそっくりさんを見たのだと思いたかった。 何回も頬っぺたをつねった。 痛かった。 やっぱり夢じゃなかった。 雨の音がBGM代わりになっていた。 どんな音楽よりも私の今の心情を表している。 こんな病気がちで鬱陶しい私より、可愛いくて女の子らしい子が良いよね。 そりゃそうだよね。 私は何も考えずに外を見ていた。 すると健くんと目が合った。 彼はすぐに目を逸らして、相手の手を解いた。 そこまでするなら、堂々としてほしかった。 コソコソなんかしてほしくなかった。 一言ぐらい別れるとかなんか言って欲しかった。 そう思いながら前を向いた。 やっと渋滞が終わって車が進み出した。 先生の古い車のエンジン音と雨の音が私の頭に響いている。 不思議な事に涙は出てこない。
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