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第14章 なった気がして
健くんと一緒に家を出た。
「ごめんね。無理言って。」
「ううん。お母さんもきっと喜ぶよ。」
お母さんのお墓は私の家から10分ぐらい歩いた所にある。
お父さんのお墓もある。
そこにお母さんと一緒に眠ってる。
ここのお墓は私しか知らない。
新しい父親は1回も来ていない。
私はお線香と母が好きだった苺を買った。
花屋に寄った。
向日葵を買った。
お母さんがよく向日葵の柄のTシャツを着ていた。
お母さんの誕生日も夏の時期だった。
向日葵、喜んでくれるといいな。
お母さんはよくコーヒーを飲んでた。
だから、毎朝私はコーヒーの香りで起きていた。
私はコーヒーは苦くて得意じゃない。
いつかコーヒーを飲めるようになるのかな?
そしたらお母さんみたいに明るくてかわいい大人になれるのかな。
コーヒーも買っておこう。
「健くんはコーヒー飲めるの?」
「いやー。全然だ!苦いもん。」
「私も。飲めたら大人になれるのかな?」
「大人への1歩じゃない?」
「だね。私一生飲めなさそうだけど。」
「じゃ子供のままだー!」
「違うし!」
暑い。
今日は特に暑い。
アスファルトからジリジリと熱が発していてとてつもなく暑い。
水分が身体から出ていくのが分かる。
喉が乾いた。
さっき店で買ったお茶を飲む。
ごくっ。ゴック。
夏にはやっぱり麦茶が美味しい。
「健くんも飲みなよ。」
「ありがとう。」
そう言って袋からお茶を取り出していた。
お茶を飲んで少し涼しくなったところで、お墓まで歩くことを再開した。
坂を登っていく。
少し登った所にお母さんとお父さんのお墓がある。
お墓からは街の景色が良く見える。
お母さんとお父さんは景色を見ながらお喋りしてるのかな?
墓石に砂とかついていたから少し払った。
墓石に水をかける。
ちょっとは涼しくなったかな?
お供えものをする。
あ。お父さんの食べ物持ってきてなかった。
ごめん。
また今度持ってくるね。
お母さんと一緒にいちごでも食べて我慢してね。
そして線香を焚く。
手を合わせる。
お母さん。昨日色々な事があったけど私は生きています。私の隣に居る男の子が助けてくれました。健くんっていうの。健くんのおばあちゃんにも助けられた。私はお母さんが死んでからずっと1人だった。でも、今は違う。色々な人に出会いたい。これからも私たちを見守っていてね。
お父さん。正直お父さんとの記憶はほとんどないの。ごめんなさい。でもね、お母さんにお父さんの昔の写真見せてもらったら、凄く男前!めっちゃかっこよかった!多分お父さんみたいな人が居たら一瞬で恋しちゃうかも。お父さん、星見るのが好きだったって聞いたよ。今度ね健くんと見に行くんだ!また見に行った話をするからね。空から見ててよね。
お母さん。お父さん。
私はこれからも頑張ります。だからどうか私を、私たちを見守ってください。
ありがとう。
「お父さん、お母さんと話できた?」
「うん。いっぱいした。」
「良かった。」
「うん。健くんの事も話したよ。良い子だよってね。」
「えー。ありがとうー。」
そして私たちはちょと涼しくなって風が吹き始めたお墓から去った。
お墓から去る時にふと懐かしい雰囲気を感じた。
風が吹いたから?
気のせい?
もしかしてすぐ傍にお母さんとお父さんがいる?
何とも言えないけどいい気分。
「明日学校行ったら夏休みだね。」
「そうだね。色々楽しみな事もあるけど勉強もしなくちゃ。健くんは卒業したらどうするの?」
「うーん。大学も行きたいけど多分そんな余裕ないから高校出たら働くよ。美希ちゃんは?」
「そっか。私は大学行って勉強したい。どんな道に行くか分からないけど。」
「応援する。」
「ありがとう。健くんの事も応援する。ずっと2人で居れたら良いね。」
私もそう言った瞬間顔が熱くなるのが分かった。
自分でも不思議なくらい自然に、迷いもなく出てきた。
まだ付き合う返事もしていないのに。
夏の暑さよりも熱い気持ちになった。
昨日よりもちょと大人になった気がして。
昨日よりも健くんの事を好きになった気がして。
色んな、なった気がして私たちはお墓を後にした。
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