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第21章 真っ白な場所
今日は夏祭りの日。
花火大会。
健くんと一緒に浴衣を来て夏祭りに行く。
りんご飴とか、かき氷とか焼きそばとか食べる。
金魚すくいとか射撃とかやってみたいな。
金魚すくいですくった金魚を育てて、名前をつけたいな。
花火見ながら2人で手を繋ぎたい。
あれ。
どんどん声が聞こえなくなる。
かすかに、健くんが私を呼ぶ声がする。
健くんの声と人々のざわめきがぐっちゃぐちゃになって私の耳に入ってくる。
目が霞んできた。
起き上がろうとしても起き上がれない。
力を入れても何処にも力が入らない。
あれから何日が経ったのだろう。気が付いたら私は病室のベッドの上にいた。
周りは真っ白でまるで何もない。
白い画用紙に白い絵の具を何回も塗りたくったような色をしている。
検診に来ていた看護師が私が目が覚めたのに気付いた。
「刈谷さん!聞こえますか?先生呼んで来ますね。」
そう言って病室を飛び出て行った。
私はまだ何も理解出来ていない。
先生がやって来た。
この先生はどっかで見た事があった。
白髪混じりの短髪で眼鏡をかけている。
あぁ。そうか。お母さんの病気の時もこの人が担当医師だった。
そうか、私もお母さんと同じ病気か。
もう死ぬのかな?
「刈谷美希さん。こういう所でお久しぶりですっていうのは不謹慎かと思うけど、お久しぶりです。」
先生は気を使って言葉を選んで私に話しかけてきた。
まさか自分が担当していた患者の娘が来るなんて思ってもいなかっただろう。
「刈谷さん。お母さんと同じ病気の可能性が高い。でも、これからなんとか解決を見つけていくから。私も全力を尽くします。」
それだったらお母さんの時も全力を尽くしてよと思った。
でも言えなかった。
この人は全力尽くしていた。
それはただの逆恨みにしかならない。
「あの男の子とおばあさんが助けてくれたんだよ。そのうち面会に来てくれると思うよ。」
そう言って先生は病室を去った。
そっか。
私あの日、健くんの家でおばあちやんに浴衣を着付けしてもらってたんだ。
その時に倒れたんだ。
ごめんね。
健くん。
ごめんね。
おばあちゃん。
誰もいない病室で西陽が真っ白な病室を照らしていた。
何日か経って病院の中なら多少は自由に行動出来るようになった。
私は外の空気が吸いたくなって屋上に上がった。
夏だから暑いけど、風が吹いてて気持ちいい。
花火見たかったなー。
そんなことを思いながらベンチに座った。
私これからどうするんだろう。
頼れる家族が居ない。
このまま死んでもいいかな。
ぎぃ。
屋上のドアが開いた。
私と同じ年ぐらいの女の子が入ってきた。
ベンチは1個しかないので私の横に座った。
その子はスケッチブックを持っていて絵を描き始めた。
私は興味本意で覗いて見た。
「何?」
女の子はぶっきらぼうに言った。
「あ。ごめんなさい。どんな絵を描いてるのかなーって思って。」
「街の絵を描いてる。」
「凄い!上手だね。」
「上手じゃないよ。ただ暇つぶしなだけ。」
そう言ってまたペンを握って描き始めた。
あの日からよくあの女の子と屋上で会うようになった。
日に日に描かれる絵を見るのが私の楽しみになっていた。
「そういや。自己紹介まだだったね。私は刈谷美希です。」
「安達紅莉。歳は17。」
「私も17だよ。同級生だね。」
「じゃタメだね。」
そう言って朱璃は笑った。初めて彼女の笑顔を見た。
屋上で会う度に色々話をした。
学校の話や病気の話とか。
「私入院生活長いんだよ。もう半年ぐらいいる。中々良くならないんだって。もうこのまま友だちとか出来ないまま死ぬのかなーって思ってた。でも、美希とこうやって喋ってると気が紛れる。私ね、いつか星をみたい。屋上は夜入れないし、山に行って見たいな。」
「行こう。私も星を見るの好きだからいつか行こう。」
「約束ね。」
短時間だけど面会も出来るようになった。
おばあちゃんと健くんが来てくれるようになった。
私は健くんに頼んで星の写真集を買ってきてくれるように頼んだ。
朱璃に見せる為。
「美希ちゃん、何かあればすぐ連絡してね。」
おばあちゃんがそう言ってくれた。
気が付いたら。
夏は終わってもう秋になっていた。
私はいつになったらここから出られるのかな。
最近は雨が降っていて屋上に行けていない。
最近紅莉に会ってないなー。
元気かな?
健くんが明日星の写真集持ってきてくれるから会いに行こう。
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