人生、終わった。

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 「レティシア様! リリアーナです!」  鍵がかかっていることがもどかしくて、いささか乱暴に扉を叩く。疑念が確信に変わるのを感じながらリリアーナは初日に預かっていた合鍵を取り出した。  「申し訳ございません、開けさせて頂きます!」  半ば叫ぶような声に反応して、部屋の中からはドタバタした足音となにか倒したような金属音が聴こえてきたが、先刻まで死を覚悟していたリリアーナにもはや怖いものはない。  転がり込むようにして入室すると、レティシアはベッドの上に座り込んで肌掛け布団に包まっていた。  「レティシア様……顔をお上げください」  「いやっ……」  「私も嫌です。もう一度きちんと謝罪させてください」  頭から覆い隠している腕を無理矢理解くと、レティシアの顔が露わになる。彼女の表情を見てリリアーナは「やっぱり」と思った。  彼女は、目元を真っ赤に腫らして泣いていた。  時折しゃくりあげながらポロポロと涙をこぼしている彼女は、冷酷無比の「悪魔令嬢」とは程遠く、年相応のあどけない少女のように見えた。  リリアーナの胸がギュッと締め付けられる。なぜなら彼女をこんな風に泣かせているのはきっとリリアーナだからだ。  また顔を隠そうとする腕を優しく退かして、海のように青い彼女の双眸を真っ直ぐ見つめる。
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