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いくらエデンガードの夏がカラッとしているとはいってもこの暑さだ。こんなに密着していては随分と堪えるだろう。
しかし、ふたりともリリアーナから離れる様子はない。
なんだかんだ言ってふたりとも深窓のご令嬢。体力がある方ではないはずなのに、一歩も引かない強情なところだけはそっくりだ。キャロラインの皮肉も、あながち間違いではないかもしれない。
一方、田舎で貧乏暮らしを送ってきたリリアーナは、ふたりより体力があると自負していた。しかしこの日差しの下、両側から熱を持ったやわ肉に挟まれ続けていると、さすがのリリアーナもボーッとしてくる。
リリアーナはレティシアに併せて淡い水色のドレスを着て来たのだが、正解だった、と彼女は思った。下手に暗い色を選んでいたら汗で色が変わってしまっていただろう。
「あっ! リリー見て、わたくしあのお菓子大好き! 買っていきましょう」
キャロラインが指さしたのはこれまた海風祭名物のお菓子、フリッバー。棒状にした生地を揚げて砂糖と香辛料をまぶした揚げ菓子だ。シンプルながらやみつきになる味で、大人から子どもまで愛されている。
リリアーナはフリッバーの屋台を見てげんなりした。大人から子どもまで愛されているということは、とても人気があるということだ。
屋台の前には終わりが見えないほど長蛇の列が並んでいた。
この炎天下、両側から挟まれて蒸し焼きにされているところへ、まだこの列に並ばなければいけないのか。
こういう時はふたりをどこかに座らせておいて、侍女であるリリアーナがひとりで並ぶのが普通だろう。リリアーナにとってもそれが一番楽だ。気持ち的にも、身体的にも。
しかし彼女たちは一向にリリアーナから離れる気配がない。つまりこの状態のまま、いつ終わるかも分からないこの列に並ばなければならないということだ。
「あっちが最後尾みたい! こっちよリリー!」
グイグイと引っ張られ、リリアーナとレティシアははキャロラインの言うままに屋台の列の一番後ろに並ぶことになった。
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