誘われて海風祭

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 あの、ミラという教育係。教育係と名乗ってはいたが、きっと彼女が侍女の代わりに仕事をしているのだろう。それなら侍女がいないことにも、彼女たちのあの距離の近さも納得がいく。  しかしそうなってくると、気になることがひとつ。「侍女が必要ない」というキャロラインの言葉に矛盾が生じてくるのだ。  彼女は侍女が必要なのに、なぜかつけていない。  侍女とは、使用人の中でも特別な存在だ。パープラー家のご息女の侍女ともなれば皆こぞってなりたがるだろう。それなのに侍女をつけていないということは……?  いつも以上にぐるぐると考えていたリリアーナは、揺らめいているのが遠くの屋台だけではないことに気がついた。前に並ぶ人の頭がぼやけて見える。それだけじゃない。目に入るもの全てが二重、三重に見える。  あ、これだめかも。  そう思った時にはもう遅い。目の前が急に暗くなる。遠くで誰かがリリアーナの名前を呼ぶ声がしたような気がしたが、リリアーナはそれに応えることなく、意識を手放した。 * * *  リリアーナが目を覚ますと、まず、心配そうに覗き込んでくる、ふたつの顔が目に入った。  「リリアーナっ……」  「ちょ……ちょっと泣かないでよ!」  ポロポロと涙を流すレティシアの隣でキャロラインが慌ててレティシアをなだめている。乱暴な言葉遣いだが、彼女もどこかホッとしたような顔をしていた。  そっか。私、あの時倒れたんだ。  リリアーナはゆっくりと自分が置かれている状況を把握していった。清潔なシーツの匂い。真っ白な天井。この場所のことはよく知らないが、どこなのかは分かった。モンフォルル家の別荘だ。
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