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リリアーナの手を取ろうとしていたキャロラインは、手帳の文字を読んで眉をひそめた。レティシアの言葉と行動は説明不足なくらいに簡素なものだったが、彼女の意思はキャロラインにも伝わった。
つまりレティシアは、リリアーナと一緒にここに残るということだ。
「でも、もう舞が始まってしまうわ！ せっかくいい席を抑えておいたのに！」
「そ、そうです！ 人払いもしてゆっくり見れるように手配致しました。私なら大丈夫ですから……」
2人はレティシアを説得しようとして慌てて口々に詰め寄ったが、レティシアは眉ひとつ動かさない。いつもはなにも読み取れないその鉄仮面から、今だけは、伝わってくるような気がした。
レティシアの、強い意思が。
「だめよ」
真っ直ぐにリリアーナを射抜く青色の瞳。レティシアの、こんなに曇りのない目を見たのは初めてだ、とリリアーナは思った。怖気付いてしまうほどに真っ直ぐな目。こんな目を見てしまったら、もうなにも言い返せない。
リリアーナは恭しく頭を垂れると、俯いたままレティシアの命令に応えた。
「……かしこまりました、レティシア様。ご配慮、痛み入ります」
「なによ、リリーまで！」
声を荒げるキャロラインを、レティシアがキッと睨みつける。ギュッと握りしめた彼女の両手は小刻みに震えていた。
キャロラインに対して対抗心を剥き出しにしていたレティシアだったが、ついこの間見知ったような仲の人間を睨みつけることは、優しい彼女にとって相当に勇気のいることなのだろう。震える拳を見てようやくキャロラインも理解した。
レティシアは至極冷静に、誠実に、そして強く、リリアーナのことを心配しているのだ。
キャロラインは一瞬ひどく傷ついたような顔になったが、リリアーナとレティシアがそれに気づくよりも早く、彼女の表情は怒りへと変化した。
「……もういいわ。わたくし1人で行く」
そう告げたキャロラインは、足早に扉へと向かい、止める間もなく部屋を出て行ってしまった。
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