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キャロラインはわざとらしくカツカツとヒールを鳴らしながら、ひとり人ごみの中を歩いていた。
もちろんモンフォルル家の護衛たちがすぐ側について彼女を追っているから本当の一人きりではなかったが、こんなに大勢の人の中にいるのに、彼女はとても孤独だった。
「どうしてっ……」
キャロラインの脳裏にふたりの姿がフラッシュバックして唇を噛みしめる。あんなに震えていたのに、それでもキャロラインを睨みつけてくるレティシア。そしてどこまでもレティシアに従順なリリアーナ。
リリアーナはきっとレティシアに蝶の舞を見てほしかったはずなのに。
リリアーナはなにも言わなかったが、キャロラインには分かっていた。いつだってリリアーナはレティシアを想っていることを。慈しみの目を向けていたことを。だってそれは全てキャロラインがほしかったものだったから。
リリアーナの想いも、優しい視線も、自分に向けられることのないそれが惜しみなくレティシアに注がれているのを見て、キャロラインはずっと羨んでいたから、分かるのだ。リリアーナはレティシアに海風祭を楽しんでほしがっていた。
倒れてしまったのだって、夜中まで準備をしていたからだって言っていたじゃない。楽しみにしていたんでしょう。レティシアと一緒に海風祭へ行けること。それなのに。
リリアーナはキャロラインのことなど気にするまでもなく、すぐにレティシアの言葉に従った。
なによりもその事実がキャロラインを孤独にさせた。キャロラインなどリリアーナの眼中にないということを思い知らされてしまった。どれだけ焦がれてもリリアーナの心は手に入らないのだ。
身体の中が真っ黒な空洞になってしまったような、恐ろしい感覚。孤独には慣れているはずなのに、耐えられなかった。
どこかの屋台から、甘酸っぱい香りが漂ってきてキャロラインは顔をしかめた。これはキャロラインの嫌いな匂いだ。だって嫌なことを思い出してしまうから。
そう、これはあの子が好きだったオレンジの香り。
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