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「……行ってしまわれましたね」
リリアーナは扉の方を向いたままポツリと呟いた。
キャロラインとは出会って間もないが、彼女の隠しきれない激情家の一面がリリアーナの目を眩ませていた。リリアーナはキャロラインが「リリアーナと一緒にいられない」ということに腹を立ててしまったのだと、すっかりそう思い込んでいた。
“大事ないかしら?”
それはレティシアも同じだったが、優しい彼女は目の敵にしていたキャロラインのことも心配している様子だった。
「護衛の者もついておりますので、ひとまずは安心でしょう」
“キャロライン様には悪いことをしたわ。後で謝らなくてはね”
そこまで書いて、レティシアの手が止まる。なにか書こうとしているがペン先は宙を彷徨い、線を書くことをためらっているようだった。
そうやっえしばし空中に線を描いていたペン先がそろりそろりと紙の上へ戻ってくる。レティシアはためらいがちに続きの文字を綴った。
“リリアーナと一緒に見に行きたかったんでしょう”
レティシアにとってあまり書きたくなかったその一文は、キャロラインがリリアーナに好意を持っているということの再確認だった。
レティシアにとってリリアーナはようやくできた理解者なのだ。上手く伝えることができないことも多いけれど、いつだって感謝しているし、そばに居てほしいと思っている。
それなのにキャロラインは、レティシアのできないことを平気でやってのける。リリアーナのことが好きだと思ったら好きだというし、リリアーナに会いたいと思ったならどんな手を使ってもやってのける。それはレティシアにとって脅威だった。
グズグズしていたら、リリアーナがキャロラインに取られてしまいそうで。
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