喧騒の中のオレンジ

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 そう、レティシアはキャロラインのことを恐れている。しかし、一方で少し羨ましいという気持ちも持っていた。  だってあんなに素直に自分の感情を表現して、思うままに行動できるなら、レティシアだってリリアーナにもっと上手に思いを伝えられるだろう。  レティシアは自分の胸の内に渦巻くこの複雑な気持ちに戸惑っていた。それは彼女にとって初めての「嫉妬」だった。今まで人と深く関わってこなかったレティシアには、感じ得なかった感情。  初めて感じる嫉妬という感情にレティシアは振り回されていた。自ら祭に参加すると言ったのも、人ごみが苦手なはずなのにキャロラインもリリアーナについて行ったことも、こうやってリリアーナを引き止めたのも……いつもより彼女のことを大胆にさせていたのは、全て嫉妬のせいだったのだ。  しかしレティシアがそれを知るにはまだ早く、今の彼女はただただ戸惑うばかりだった。  リリアーナはレティシアの戸惑いには気づかなかったが、彼女がなにか別のことを考えているのだろうということは察していた。  「確かに、キャロル様には申し訳ないことをしたかもしれませんが……レティシア様も、本当によろしかったのですか?」  きっとレティシアは「蝶の舞」のことを考えているのだろう。リリアーナはそう思っていた。楽しい祭の場を台無しにしてしまった、という負い目がそう推察させた。  実際のところレティシアは、リリアーナのことばかり考えていたのだが。  “リリアーナが倒れるなんて普通じゃないわ。まだしばらく休んでいてちょうだい。わたくし、心配なの”  それはレティシアの本心だったが、同時に嘘でもあった。無意識の内に働いた嫉妬心が、リリアーナを側に置いておこうとしたのも、また事実だった。しかし自らの嫉妬に気がつくことすらできないレティシアには、自分が嘘をついたことなど、知る由もないことだった。
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