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あのキャロラインが、こんなにも頼りなく見えたのは初めてだった。キャロラインはリリアーナの背に隠れ、目を逸らしてじっと地面を見つめていた。
今すぐこの場から逃げ出したい、そんな思いがひしひしと伝わってくる。この素朴な少女のどこが恐ろしいのかリリアーナには分からなかったが、キャロラインは確かにジェイミーを恐れているようだった。
リリアーナにはジェイミーがそんなに恐ろしい人間には見えなかった。彼女はキャロラインとは違って、ずっとキャロラインだけを見つめていたが、その目は不安げに翳っていた。グッと握った拳は、振り上げるためではなく、自分を鼓舞するために握られているのだろう。
ジェイミーのその様子を見れば分かるはずなのにわキャロラインは彼女を見ようとしていないから気づかない。リリアーナはもどかしくなって、思わず口を開いた。
「キャロル様。聞いてみてもよいのではないですか」
振り向くとキャロラインは小さく震えていた。過剰なほどに自信家な彼女が、今は自信なさげに瞳を揺らめかせている。
リリアーナは初めて自分からキャロラインに触れた。
キャロラインの両肩にリリアーナの手の平の熱が伝わってくる。全身にぬくもりが通っていく。そこでようやく自分の指先が冷え切っていることに気づいて、キャロラインは自分がジェイミーを恐れているということを自覚した。
「彼女のことを、しっかりと見てください。大丈夫です。彼女はあなたを傷つける存在ではないと思いますよ」
伝わる熱と共にリリアーナの言葉が全身に沁みるように身体の中で反響する。
そうだ。わたくしは、ジェイミーのことをちゃんと見たことがなかった。彼女が侍女だった頃から、ずっと。
今こそ、向き合うべきなのかもしれない。目を逸らし続けてきたことに。彼女に。そうでないと、これからもキャロラインはずっと独りで、ずっと誰にも見てもらえないままだろう。
キャロラインは決意すると、恐る恐る視線を上げた。
「……キャロライン様」
そこにはまるで鏡でも見ているかように、不安げな表情をしたジェイミーが立っていた。
その彼女の表情を見て、向き合うことを恐れていたのは自分だけではないのだと悟る。キャロラインは深く息を吸うと、震える声を抑えながら言葉を絞り出した。
「……分かったわ。話を聞かせて、ジェイミー」
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