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「ありがとう、ございます」
ジェイミーは苦しそうにお礼の言葉を述べた。そして意味ありげな目でリリアーナを一瞥する。リリアーナにはその理由が分からなかったが、どうしたのかを聞く前にジェイミーは自分が侍女をしていた時のことを語り始めた。
* * *
ひっくり返った陶磁の花瓶は、一瞬宙を舞って、絨毯の上に叩きつけられた。無惨にも粉々になった陶磁の白い破片はは、朱赤の絨毯の上に散らばって絶望的な模様を描いている。
「キャ、キャロライン様! 申し訳ございません!」
「いいのよ。怪我はない?」
「だ、大丈夫、です!」
ジェイミーは慌てて跪くと、破片を拾い集め始めた。
ジェイミーは真面目で勉強が得意な少女だった。キャロラインの侍女に選ばれたのもその学力を買われてのことだった。しかし彼女は潔癖なほどに生真面目で、それ故に不器用な少女でもあった。
真面目で不器用なジェイミーは、正直、あまり優秀な侍女ではなかった。
どんな考え事も平等に考えすぎてしまって、丁寧にするべきものと、手を抜いてもよいところ、その区別をつけることができないせいで、仕事は遅いし、ミスも繰り返す。
それでもジェイミーは、なんとかキャロラインにふさわしい侍女となるため、懸命に侍女を務めていた。
ジェイミーは、失敗するたび、キャロラインが悲しそうな顔で自分のことを見ているのにも気づいていた。きっとそれは失望の表情だろうということにも気づいていた。
けれど、いつの日かその顔が笑顔に変わるように、キャロラインに「自慢の侍女だ」と言ってもらえるように、ジェイミーは不器用ながらも日々努力していた。
ミスをしたら、なにが悪かったのか、どうしたらよかったのかを日記に書き出したり、国勢からたわいのない噂まで様々なものの情勢に気を配ったり、流行りの服飾品やお茶菓子など社交の場に役立つものの情報の収集に努めたり。そういった頭の使い方は彼女が得意とするところだった。
自分なりに、自分にできることを、精一杯。
そうやって日々、少しずつだがジェイミーは成長していった。
しかし同時にジェイミーには、とある不安が生まれていた。
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