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それから、ジェイミーにとって地獄の日々が始まった。
ジェイミーは食事の時間すらも削って今まで以上に勉学に励むようになった。もはやそれはキャロラインのためではなかった。これはジェイミーにとって、自分の存在価値を守るための闘いだった。
しかし、不器用な彼女が勉学の時間を増やしたところで、そんなにすぐに上手く立ち回れる訳がなかった。それどころか気を遣えば遣うほど、肝心なことが抜けてしまう。空回って、空回って、普段ならしないようなミスを冒す。
そして、そのたびキャロラインはジェイミーの届かないところから完璧な姿で振り向いて、微笑むのだ。
「大丈夫よ、ジェイミー」
その残酷な言葉は、じわじわと確実にジェイミーを蝕んでいった。
そんな日々が続いて、心身ともに疲れ切っていたジェイミーは、その日も鬱々とした心持ちでキャロラインの後ろを歩いていた。
鬱々としているジェイミーとは裏腹に、春の木漏れ日は軽やかで暖かかった。サクサクと草木を踏む2人分の足音。嫌味なほどに清々しい緑の匂いが息をするたび鼻腔に流れ込む。
キャロラインとジェイミーは、屋敷から少し離れた所にあるち小さな森へと散歩に出かけていた。たまには気分を変えて、そこでお茶にしたいとキャロラインが言い出したのだ。
瓶のレモネードやお茶菓子やらを入れた大きなバスケットは、それなりの重さがある。ジェイミーはバスケットを落とさないよう、手元にを気にしながらキャロラインの背中を追った。
キャロラインは真っ直ぐ前だけを見て歩き続けている。その視線は当然、ジェイミーに向くことはない。そしてジェイミーもまた、バスケットばかりを気にしていて、ふたりはそれぞれバラバラの方向を向きながら道を歩いていた。
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