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唐突なキャロラインの叫び声。ジェイミーがハッと前を向くと、彼女はどこにもおらず、目の前には大きな穴が空いていた。
その状況から導き出されるのは、最悪の答え。
恐る恐る穴を覗き込んだジェイミーは、思ったよりも深い穴の底に、泥だらけのキャロラインが転がっているのを見つけた。サーッと血の気が引く。まさか、打ちどころが悪かったのでは?
その悪い想像はキャロラインの呻き声でかき消された。どうやら意識はあるようだ。目立った怪我もない。しかし、最悪な状況であることには変わりなかった。
「……ジェイミー!」
覗き込む顔に気がついたキャロラインが、身体を起こして声を張り上げた。少しこもった声がジェイミーの耳に届く。
「わたくし、どうなったの……? これは……穴……?」
彼女たちは後で知ることになるが、その小道は近くに住む猟師が作った害獣用の罠の道だった。キャロラインが落ちたのは、泉に集まる鹿などを狙い、作られた落とし穴だったのだ。
そんなことを知る由もないふたりは、突然の大穴に混乱していた。
道を歩いていたら突然なかったはずの穴に落ちたのだから、いくら聖女とあだ名されるキャロラインといえど、混乱するのは仕方がないことだった。
しかし今この瞬間、誰よりも混乱していたのはジェイミーの方だった。
これは彼女にとって今までで一番大きな失態だった。下手をしたらキャロラインは死んでいたかもしれないのだ。普段の雑務仕事すら全うできないのに、侍女にとって一番大切なご主人様を守ることすらできなかった。
なにがあるか分からない小道を行かせるべきではなかった。いつもの道を進むよう進言すべきだったのだ。ジェイミーはそれを怠った。
混乱の中から、悔しさが溢れ出してくる。
あんなに勉強して、努力して、それでもキャロラインに追いつけなくて、でも自分なりにやれることはやってきたと自負していた。それなのに。
やっぱり私は、役立たずだった。
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