路地裏の告白

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 「ジェイミー! そこになにか、長い物はない? わたくしが引っ張っても大丈夫そうな……」  穴の底から聞こえてくるキャロラインの声がジェイミーの神経をザリザリと撫でる。こんなにも悲しくて、惨めな気持ちでいるのに、キャロラインのいつもと変わらないその声が、ジェイミーの心を黒く塗りつぶした。  「どうにかして上がれないかしら? 誰か呼ぶのは最終手段よね……」  そもそも、彼女さえいなければよかったのだ。  それは唐突で理不尽な怒りだった。しかし一度湧き上がったそのどす黒い感情は、もう止めることができなかった。今まで抱え続けていた不安、抑圧感、そして強烈な劣等感。その全てが怒りに変換されていく。  「ジェイミー? ねえ、聞いてる?」  彼女さえいなければ。彼女と出会ってさえいなければ、自分が役立たずだということを自覚せずにすんだのに。こんなに惨めな思いをすることもなかったのに。  怒りに支配されて動けなくなっているジェイミーに向かって、キャロラインは少しいら立ちながら叫んだ。  「ねえったら! あなた、わたくしを助ける気あるの?」  その言葉を聞いた瞬間、ジェイミーの中でなにかが弾け飛んだ。  「……ジェイミー?」  さすがのキャロラインもジェイミーの様子がおかしいことに気づいたようで、訝しげに彼女の名前を呼ぶ。しかしジェイミーの怒りはもう止まらない。  彼女は震える声で吐き捨てた。  「キャロライン様なら、なんでもご自分でお出来になるでしょう」  「え……? ど、どういう意味?」  戸惑うキャロラインを他所に、ジェイミーは立ち上がってゆっくりと一歩後ろへ下がった。  「どこへ行くの、ジェイミー?」  キャロラインの声が不安で揺れる。キャロラインからはもう彼女の姿は見えなくなっていた。ザク、ザク、と土と草木を踏みしめる音。遠ざかっていくそれは、ジェイミーの足音だった。  「ジェイミー?! 置いて行かないで!!」  キャロラインは自分が置かれている状況を正しく把握して、悲痛な声を上げた。その叫び声に反応して、足音が止まる。キャロラインがホッとしたのも束の間、ジェイミーは感情のない平坦な声で冷酷に告げた。  「私は必要ありませんから」  足音はザク、ザク、と遠ざかっていく。キャロラインがどれだけ叫んでも、その足音が止まることはない。喉が枯れるまで叫んで、叫んで、叫び疲れて────ようやくキャロラインは悟った。ジェイミーはもう二度戻ってくることはないのだと。
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