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「山の神に感謝の蜜を、海の神に感謝の風を」
両手の指を組んで祈りを捧げると、花びらが落ちた音すら聞こえそうなほどに静かな朝食が始まった。
食卓に並ぶ料理はどれも彩りよく食欲をそそられる香りを放っている。中でも鶏肉のソテーは特別美味しそうで、リリアーナはこっそりと生唾を飲んだ。
パリッと焼かれた鶏皮の下には弾力のありそうな身の詰まった肉が覗き、蜂蜜が混ざっているのか少しとろみのついたソースに添えられたレモン。間違いのない取り合わせだ。
既に朝食を終えているのに空腹を覚えてしまうなんて、さすがモンフォルル家、コックも一流。凄まじく誘惑的な料理たちをチラチラと覗き見ながら、リリアーナは必死に腹の虫を押さえつけた。
ゆっくりと時間をかけ朝食を食べ終えると、モンフォルル夫妻は各々の部屋へと戻っていった。いつもならレティシアも自室へ戻って庭の散歩に出かけるために準備をする。
しかし、今日は違った。
両親が各々の部屋へ戻っていっても、彼女は食堂で紅茶を飲みながら外を眺めている。他の使用人たちが持ち場へ戻り、ほとんどふたりきりになったところでようやく彼女は口を開いた。
「……シェフを」
淡々としたその口調。そしてなにを考えているのか分からない、人形のような横顔。リリアーナはなにか嫌な予感を覚えながら、「かしこまりました」と応えた。
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