78人が本棚に入れています
本棚に追加
レティシアの人見知りを直すと宣言してから、リリアーナはことあるごとに彼女に笑顔の特訓を行っていた。レティシアが緊張しないよう、ふたりきりの時を選んでは練習、練習、練習。今日も庭を散歩しながら、リリアーナはレティシアに向かってニッコリ笑ってみせた。
「レティシア様! にー!」
「に、にー……」
固まりきった表情筋が笑顔を作るのは難しく、レティシアの笑顔はかなりぎこちないものだった。これでもマシにはなってきたのだが、なんというか……ハッキリ言ってしまうと、怖い。すごく。
確かに笑えてはいる。これでも進歩した方だ。だけど怖いものは怖い。
唇はなんとか笑みの形をとっているが、ぎこちなさが悪い方に働いてなぜか嘲笑しているように見える。練習不足な目元あたりの筋肉は固まったままなので目は全然笑っていなくて余計に怖い。しかも自信がないのか俯きがちに笑うせいで、背の高い彼女はどうも人を見下しているように見えてしまって、まるでお芝居に出てくる悪の黒幕のような謎の迫力が出ている。
これがただの笑顔の練習だと知っているリリアーナでさえ怖いのだから、他の人が見たらまたあることないこと言われてしまいそうだ。
人見知りを直すと意気込んだはいいが、元々人当たりがいいと自負しているリリアーナにとって、息をするようにできることを教えるというのは、呼吸の仕方を教えるのと同じくらい難しい。
笑顔以外にも克服すべきことは沢山あるのに、中々前に進んでいる気がしなくてリリアーナは頭を悩ませていた。
なにかいい方法はないものか。
最初のコメントを投稿しよう!