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「そういえば……久しぶりに弟家族が帰国してくるらしくてな」
モンフォルル公爵は口元を拭きながらそう言った。彼の動きに合わせて燭台の火がゆらゆらと揺らめく。豪勢なディナー料理たちに負けず劣らず、あでやかな黒のドレスを纏ったアリシア夫人は、ピンと伸ばした姿勢を崩すことなくほとんど視線だけで公爵の方を向いた。
「……オーウェン様が? お仕事の都合かしら」
「ああ。顔は見せにくるようだが、昼に用事を済ませたらまたすぐ船旅に戻るそうだ。相変わらず嵐のような弟だよ」
「あら、残念だわ」
側に控えていた使用人によって赤ワインが注ぎ足され、グラスの中で芳醇なぶどうの香りが弾ける。夫人はグラスを手に取って、注がれたばかりのワインをひとくち口に含んだ。
「それなら、お昼前のお茶会にシャーロット様たちをご招待しても?」
夫人の提案に、モンフォルル公爵は「もちろん」と頷いた。
オーウェンというのはモンフォルル公爵の弟なのだが、宝石集めの趣味が高じてモンフォルル家を出た変わり者で、今は世界中を旅する宝石商をやっているらしい。そしてシャーロットというのは彼の妻。オーウェンは家族で帰国するということだから、アリシア夫人はシャーロットと彼らの娘をお茶会に誘おうとしているのだろう。
リリアーナはいつものように目を伏せたままレティシアの背後で息を潜めながら話を聞いていたのだが、お茶会の話が出た瞬間、いても経ってもいられずにかがみ込み、興奮気味に囁いた。
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