恐怖のお茶会デビュー

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 笑うたびにファンファーレが鳴っているんじゃないかというくらい華やかな笑顔。レティシアは思わずウッと呻きそうになったが、拳を握りしめることでなんとか堪えた。  「ねえレティシアちゃん! これ、私のお気に入りなのよ。こちらじゃ珍しい桃のフレーバーティーなの。ぜひ飲んでみて!」  お菓子にも紅茶にも手をつけていないレティシアを気遣って声をかけてくれたのだろう。気が回るしとても優しい方だ。しかしその優しさは人間初心者のレティシアにとって全くの逆効果だった。  おさまってきていたレティシアの手の震えは、ここ一番の激しさを記録していた。地面から震えているのかと思うくらいに頭の先までブルブルと震えている。  それになんと言っても顔。癖になっているせいで眉間には深い皺が寄っていた。震えながらそんな顔をしているものだから、客観的に見ると……どう見てもレティシアは怒っていた。  アリシア夫人のご友人たちがヒッと息を飲んだのが聞こえた。これはまずい。  「レティシア様、お顔! お顔が険しくなってらっしゃいます!」  リリアーナが必死に囁くも、レティシアの頭は「すすめられた紅茶を飲む」というミッションでいっぱいになっているようで、半ば聞こえていない様子だった。  震えの止まらないレティシアの指が、ティーカップをつまむ。  いやいやいや! そんな手で持ったら大変なことに、ダメダメ、絶対にダメー!  リリアーナの心の叫びは届かず、レティシアはティーカップを持ち上げた。その瞬間、あり得ないほどの震えに耐えられなかったティーカップは、弾き飛ばされるように宙を舞い、それはそれはきれいな放物線を描いて……  サーシャのドレスに、直撃した。
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