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凍りつく空気。側から見るときっとレティシアが怒ってサーシャに紅茶をかけたように見えただろう。幸い中身は冷えていたから火傷の心配はないが、最高だったはずのお茶会は、恐怖のお茶会へと一変してしまった。
「あ……」
レティシアも自分がなにをしてしまったのかは理解していた。やらかしたことの重大さに加えて、この場にいる全員の注目を浴びていることに頭が破裂しそうになりながら、「なにか言わなければ」と思った彼女の目に入ったのは片手に握りしめていた手帳。
レティシアは反射的にそこに書かれた文章を読み上げた。
「とてもお似合いだわ……」
……なんで今それを言ったのレティシア様ー!
リリアーナは心の中で叫び散らしていた。ものすごい皮肉を言い放ったことに気づいていないレティシアはもう完全に思考停止してしまったようで、カチコチに固まっている。
目の前にはびしょ濡れのサーシャ、目を丸くしているシャーロット、絶句しているアリシア夫人、そして「次は私たちよ」みたいな目でこちらを見ながら震えているご婦人たち。
最悪だ。これでは「悪魔令嬢」の噂にまた新たなページが追加されてしまう。
「……サーシャ様、申し訳ございません! すぐに着替えを」
真っ先に動いたのはリリアーナだった。メイドたちに指示を出し、サーシャの着替えを手配すると、茫然自失のレティシアの腰を支えて立ち上がらせる。彼女が膝に置いていたナプキンやらなんやらが下に落ちるが構っていられない。
「申し訳ございません皆様方。お嬢様は朝から体調が優れないご様子でして、今お話しできる状態ではないようです……途中ですが失礼させていただきます」
リリアーナは深く一礼すると、半ばレティシアを抱えながら、脱兎の如き素早さで、彼女が一番安心できる場所へと逃げ帰ったのであった。
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