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こうやって少しずつ前に進めばいい。リリアーナはそう思っていたが、世界は時に目まぐるしく変化していく。モンフォルル家には今まさに、抗えない突風が吹き込んで来ていた。
あくる日の朝食の席。モンフォルル公爵は、いつもより上機嫌だった。
「レティシア。エデンガード王から舞踏会の招待状が届いた」
実はレティシアの元にはそういった招待状がちらほらと届き始めている。彼女は今年で16歳。社交界デビューしていてもおかしくない歳だ。いくらレティシアが「悪魔令嬢」と恐れられていてもやはりモンフォルル家との繋がりが欲しい家は少なくないのだ。
とはいえ国から招待状が届くことは稀だが、おそらく今回の舞踏会の目的は近々あると噂されていた第3王子の婚約者のお披露目だろう。その招待状も国中の名家に送られているに違いない。
モンフォルル公爵はニコニコと笑みを浮かべながらサラリと言った。
「お前のお披露目にも相応しい舞台だろう。出席の返事をしておいた」
側から見ればいつもと変わらぬポーカーフェイスだが、リリアーナには分かった。レティシアが「えっ」という顔をしたのが。正直リリアーナも「えっ」と言いそうになったが素知らぬ顔で微笑むに留める。
お茶会でさえカチコチだったのに、いきなり舞踏会だなんて階段を飛び越えすぎてはないだろうか。しかも国中から名家の貴族たちが集まる大舞踏会。大勢の知らない人間。そしてなんと言っても殿方とのダンス。
レティシアには刺激が強すぎる。そんなの失神してもおかしくない。リリアーナはあらゆる可能性を考えては心配で心配でどうしようもなくなって、今にも喚き出しそうになっていた。
まるで過保護な母のようなリリアーナとは裏腹に、本物の母であるアリシアは余裕たっぷりに微笑んだ。
「とっておきのドレスを仕立てさせないといけないわね」
またしても退路を断たれたレティシアは、呆然としながら頷いたのであった。
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