作戦名は「壁の花」?

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 エデンガード国主催の舞踏会。  既に承諾してしまった誘いだ、今さら断ることはできないだろう。直前になって体調が優れないことにして休んでしまおうか?いや、そんな嘘はすぐにばれる。なぜならレティシアは今まで同じような理由をつけては数多の誘いを断ってきているからだ。あの「悪魔令嬢」が、今度は国王からの誘いを蹴った……なんて噂されたら堪ったものではない。  レティシアはハーブティーを啜りながら、怯える小動物のようにプルプルと小刻みに震えている。リリアーナはこのいたいけな少女が、なんの策もなく獣だらけの社交界に放り込まれることを想像して身震いした。  とりあえず……人ごみからは逃げ出せばいい。王への挨拶は……風邪で声が出ないとでも言えば乗り切れるか?一番の問題はダンスだが……ダメだ。ダンスだけはどう足掻いてもダメ。もうそこはごまかせない。踊るか踊らないかしかない。  踊らないことは簡単だ。しかし問題なのは舞踏会がレティシアのお披露目の日でもあるということだ。モンフォルル家の娘として、堂々とした姿を求められる場で、踊りもせずにずっと庭木の陰で過ごす訳にもいかない。  今から手頃な男性とダンスの練習をする?悪くはない案だ。モンフォルル家は代々ダンスが上手いことでも有名な家である。英才教育を受けてきているレティシアもおそらくダンス自体は下手ではない。しかし、本番で付け焼き刃の練習が通用するだろうか。  リリアーナには、お茶会ではレティシアに無理をさせてしまったから、もう彼女を無闇に傷つけたくないという気持ちもあった。だからできるだけ彼女に負担になるようなことはしたくない。  少なくとも一曲踊っておけば、モンフォルル家の娘としての役目は果たしたことになるだろう。あとは気づかれないように上手く「壁の花」になればいい。でも、どうやって? レティシアを傷つけずにこの問題を乗り越えるには?  ウンウンと唸っている侍女を心配して、レティシアが彼女の裾をクイ、と引いた。リリアーナはハッとして謝ろうと顔を上げ、ピタリと動きを止めた。
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