いざ、決戦の舞台へ。

5/6
前へ
/127ページ
次へ
 「この宴は我が息子、ノアの婚約を祝うものでもある。ふたり、前へ」  そう言われて前に出てくる若い男女。エデンガード王と同じ白金の髪の優しそうな青年はこの国の第三王子ノア・エデンガード。寄り添うように彼の隣に立つ黒髪の美少女はモンフォルル家と並ぶ名家、国王から蘭の家紋を授けられたランキッド公爵家のご息女。  「ヘレナ・ランキッドでございます」  そう言って彼女はドレスの裾を摘んだ。ハッと目を引くオレンジ色のドレスは彼女によく似合う。柔らかい雰囲気のノア王子とは真逆で、高嶺に力強く咲く花のような凛々しい立ち姿。それは王子の婚約者に相応しい堂々としたものだった。  レティシアとそう変わらない歳のはずだが、ヘレナは臆するなことなく、意志の強そうな黒曜石の瞳でホールの貴族たちを真っ直ぐに見据えている。  周囲の令嬢たちがヒソヒソと囁き合っているのが聞こえてくる。彼女たちは皆揃ってヘレナへ憧憬の眼差しを向けながら、興奮で頬を紅潮させていた。  彼女の噂は、ど田舎に住んでいたリリアーナでも聞いたことがある。美しく、なにをやらせても完璧にこなす才女。誉れ高きランキッド家のご息女、誰が呼んだか「黒蘭の君」。ヘレナはレティシアと同い年くらいの貴族の娘にとって憧れの存在なのだ。  しかし、国から紋章を与えられた名家の娘でも、こうも差があるものか。方や「黒蘭の君」、方や「悪魔令嬢」。どちらも噂で有名になったふたりだが、彼女たちはなにもかも対照的に見えた。
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加