さあ踊りましょう、庭園のワルツ

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 「庭園のワルツ」とは、エデンガード王国に昔から伝わる伝統的なワルツの楽曲である。この国の貴族なら赤子でも踊れると言われるほど、馴染み深く、愛されている。特に祝いの場には必須の一曲だ。  「リリアーナ……」  「大丈夫ですよ。皆様が注目しているのはノア様とヘレナ様ですから」  そう、「庭園のワルツ」を選んだのはそういう理由もある。まずは一番踊り慣れている曲だということ。そしてもうひとつは、祝いの場で必ず踊られるこの曲を、今宵の主役たちがが踊らないはずがないということ。  レティシアから注目が逸れるのは、きっと王子とその婚約者が踊っている時しかない。  「それよりも……私の恰好、変じゃないですか?」  「だっ……だ、だい、じょぶ」  レティシアはあからさまにどもりながら、目線を空中に彷徨わせた。頬が赤いのは頬紅のせいだけではなさそうだ。どうやら照れているらしい彼女を見て、リリアーナは思わずクスリと笑った。緊張で青くなっているよりは、その方がよっぽどいい。  一曲目とは打って変わってしっとりとしたヴァイオリンが聞こえてくる。プログラムによれば次の曲が「庭園のワルツ」。  応接室で着替えを済ませてからレティシアは頑なに目を合わせてくれないが、それを見てリリアーナは確信していた。この様子ならイケる。きっと踊りきれる。  小鳥のさえずりのような、特徴的なフルートの旋律。「庭園のワルツ」の前奏が始まったのだ。リリアーナはレティシアに囁いた。  「行きますよ、レティシア様」
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