さあ踊りましょう、庭園のワルツ

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 真っ赤な顔でレティシアが頷く。それを確認してから、リリアーナは───いや、は、優しく彼女を引き寄せて、ホールドの姿勢をとった。  そう、これこそがリリアーナの思いついた「替え玉作戦」。  レティシアの替え玉が難しいなら、彼女の相手を捏造してしまえ、という訳だ。  本当の男性に慣れるには時間がかかる。だけどリリアーナとならきっとレティシアも踊れるはず。パートナーは誰も知らないような田舎の親戚のだれそれ、とでも書いて申請しておけばいい。要人が集まる舞踏会とはいえ、そんな細かい所まで調べたりしないだろう。  それに、たとえ調べられても嘘を言っている訳ではないので問題はない。実はリリアーナの実家であるフォスター家はモンフォルル家と繋がりがなくもない。リリアーナの叔父の姉の旦那のいとこがモンフォルル家の血筋なのだ。ものすごく遠いが本当に親戚である。侍女の話が回ってきたのもその繋がりがあったからなのだ。だから嘘ではない。決して。  そしてなにより、リリアーナの、どこにでもありふれた茶色の髪と瞳は変装にうってつけだった。顔つきも派手な方ではないし、傷や黒子のような印象的な特徴もない。加えてモンフォルル一家が目立ちに目立ってくれたおかげで、誰もレティシアの隣にいた平凡な付き人のことは覚えていないだろう。  しかし、それにしたって男装して王の御前で踊るだなんて……大胆な作戦だとは思う。正直リリアーナも、こんなに上手くいくとは思っていなかった。  この突拍子もない作戦を思いついてすぐに、リリアーナは実家に手紙を送った。彼女の行動は実に早かった。なにせ藁にも縋る思いなのだ、少しでも可能性があるならやらない訳はない。  数日後、実家から届いたのは父の一張羅。届いたその日にリリアーナはそれを試着した。胸を潰し、肩には詰め物をして、靴は上底、いつもはアップスタイルにしている髪も解いて後ろで結んで……とりあえずこんなものか、と、鏡を見てリリアーナは驚いた。  なにかを思いつくきっかけになればいい、くらいのつもりだったのだが……なんと、あり得ないくらいに似合ってしまっていたのだ。それなりにあった背丈のおかげか、それとも顔が父似だったおかげか。  元がリリアーナだと知っているレティシアでさえ、照れて目も合わせられなくなるくらいに、彼女は美青年だった。  もうこれは、これで、行くしかない。そう決意したリリアーナは、ただでさえ苦手なダンスの、ろくに踊ったことのない男性パートを踊りこなすべく、日々練習に励むこととなったのだった。
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