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フルートのさえずりに、そよ風のように涼やかなヴァイオリンの音色が重なり合う。「庭園のワルツ」の主役と言われている2つの楽器は、心地よいハーモニーを奏でていた。
レティシアという先生が優秀だったおかげか、リリアーナは苦手だったステップを危なげなくこなしていた。基本はレティシアがリードしてくれているものの、それを悟られないよう取り繕える程度には上達している。毎日毎日練習に明け暮れた甲斐があったというものだ。
ふたりでなら、踊れる。踊りきれる。
リリアーナは半ば作戦のことを忘れて、すっかり嬉しくなっていた。苦手なダンスが、こんなにも楽しい。こんな風に思えるようになったのは紛れもなくレティシアのおかげだった。
「レティシア様」
ずっと俯いていたレティシアが顔を上げる。ふたりの視線が混ざり合い、リリアーナは抑えきれなくなった言葉を囁いた。
「ダンスがこんなに楽しいのは、初めてです」
きっとレティシアは大変な思いをしているだろうに、自分ばかりこんなに楽しくていいのだろうか。申し訳ない気もするが、自然と頬が緩んでしまう。
リリアーナのふにゃけた笑顔を見たレティシアは、ヒュッと息を飲んで、幽霊にでも出会ったかのように強張った顔になった。
正直、リリアーナは少しショックを受けた。いつもならこういう時、笑い返してくださるのに。そんなにだらしない顔をしていただろうか。いや、自分が大変な時にヘラヘラしているのが気に障ったのかもしれない。申し訳ないことをした。
そんなことを思いながらリリアーナは精一杯顔を引き締める。レティシアは彼女の顔を直視しないようにまた視線を伏せた。
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