誰が扉を叩いたか

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 「レティシア様! 上手くいきましたね、完璧でしたよ!」  興奮気味な侍女の声にハッとすると、気づけばまたあの小さな応接室へと戻ってきていた。リリアーナはもう元のドレスに着替え終わって、脱いだ服をドレスの内側に仕込んだ袋に仕舞い込んでいる。  それを認めてようやく、レティシアにも実感が湧いてくる。そうだ。終わったのだ。乗り越えたのだ。高く険しい頂を。  レティシアはコルセットの間から手帳を取り出すと、サラサラとペンを滑らせた。  “ありがとう。リリアーナのおかげよ”  「私の力なんて微々たるものです。レティシア様が頑張られたんですよ」  そう言って笑いかけてくるリリアーナはいつも通りで、少しホッとする。一番の問題だったダンスをこなしたのだから、あとは舞踏会が終わるまでこの辺りでやり過ごすだけ。  そう思ったらどっと疲れが襲ってきて、レティシアは肘掛けにもたれかかった。  「レティシア様!」  “大丈夫、少し疲れただけ”  それを読んでリリアーナは、ホ、と息を吐く。  「今、なにか冷たいお飲み物などお持ちいたします。レティシア様はここでしばらくお休みください」  レティシアがお礼の言葉を書き出す前に、侍女はペコリと一礼し、踵を返して部屋を出て行った。  慌ただしく遠ざかっていく足音を聞きながら、レティシアはゆっくりと息を吐く。彼女は疲れていたが、その表情は穏やかだった。ホッとしたのもあるが、それ以上にリリアーナが、大慌てで駆け出していったのがおかしかったのだ。それが全てレティシアのためだということが、より彼女の機嫌を良くさせていた。  さっきまで堂々とワルツを踊っていたのに。わたくしを励ます余裕まであったのに。それが今、あんなに足音を立てて走り回って、本当におかしい人。  そんな事を思いながら、レティシアは肘掛けにもたれたまま目を閉じた。  ────しかし、彼女に休息の時間が与えられることはなかった。
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