人生、終わった。

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 本来ならレティシア嬢にお目にかかることすら困難な木っ端貴族。そんなフォスター家に侍女の話が回ってきたのは奇跡的だった。  まあ側からすると見えている落とし穴でしかないが、このチャンスを逃す手はないとリリアーナは思った。さすがに家族にも反対されたが、それを押し切ってリリアーナは自ら魂を売ったのだった。  もちろんなんの策もない訳ではない。リリアーナには上手くやっていけるという自信があったのだ。  貧しいながらも社交界で生きるために磨いてきた処世術。そして愛嬌。自慢じゃないが顔立ちもそんなに悪くない。髪も瞳も平凡な茶色で、華はないかもしれないがその分親しみやすいのか、歳も性別も貧富の差も関係なく、どんな人とでもすぐに仲良くなれる。これは彼女にとって唯一自慢できる才能だった。  「悪魔令嬢」などと呼ばれていても同じ人間。レティシア嬢と仲良くなるのは至難の業だとは思うが、首をはねられるまではいかないだろうと思っていたのだ。  そう、思っていた。ほんの先ほどまでは。
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