届いた思い

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 「……レティシア様」  意識がないままベッドに横たえられたレティシアは、陶器の人形のように全身の力が抜けてグッタリしていた。彼女の額には脂汗が滲んでいて、先程まで極度の緊張状態にあったことが窺える。リリアーナは心を痛めながら乱れた彼女の前髪を整えた。  「どうぞ、お使いになって」  一緒にレティシアを運んでくれたご婦人が、水に濡らしたハンカチーフを渡してくれる。リリアーナはそれを受け取りながらペコリと頭を下げた。  「ありがとう存じます」  汗ばんだレティシアの額や首筋を拭いてやると、彼女が深く息を吐く。人々の熱気に当てられ、火照った身体には、水の冷気が心地いいのだろう。  コルセットも緩めて、もっと身体を冷やして差し上げないと。  そんなことを思いながらぬるくなったハンカチーフをもう一度水に浸そうとして、リリアーナはふと気付いた。  「これ……」  そのハンカチーフには見覚えがあった。四季の花の刺繍が人気の呉服店。春の花の刺繍が入ったハンカチーフ。店頭に並んでいるものとは違う、オーダーメイドのその刺繍は、間違いなくリリアーナが手配したものだった。  ハッとしてご婦人らの顔を見上げると、彼女たちは揃って微笑んだ。  「そう。レティシア様から頂いた物よ」  そう、彼女たちは、あのお茶会に来ていた、アリシア夫人のご友人たちだった。レティシアのことばかりに頭がいっていて、助けてもらったご婦人たちの顔もまともに見ていなかった。リリアーナは慌てて深々と頭を下げた。  「申し訳ございません! 奥方様のご友人にとんだご無礼を……私、気が動転していて……」  「いいのよ。レティシア様があんなことに巻き込まれて、それどころじゃなかったわよね」  ハンカチーフを貸してくれたご婦人は口元にそっと手をやって上品に苦笑いした。
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